脳MRI画像解析で精神疾患ハイリスク群を抽出するAI開発、判別精度70%以上
精神疾患の発症リスクが高いとされる群の脳MRI画像を教師データとして機械学習し、発症前のMRI画像を健常群とハイリスク群に分類できるAI(人工知能)を開発したと東京大学の研究グループが発表した。教師データは国際共同研究コンソーシアムで集積された症例で、この領域で課題とされる「MRIモダリティ間の画像や撮像パラメータの機種間差」を補正していることも特徴だ。
MRI機種間差の補正、思春期の脳発達変化との峻別も成功
今回開発されたAIは、国際共同研究コンソーシアム「ENIGMA CHR」による2,000名を超える磁気共鳴画像(MRI)の脳構造画像データの解析をもとにしたもの。精神疾患の脳画像による診断においてはMRI機種や撮像パラメータによって解析結果が異なってしまう「機種間差」の影響が大きいとされ、多施設共同研究における課題となっているが、研究グループはこうした機種間差を補正できる先行研究を発表しており、この成果をAI構築の際に投入した。
具体的には、ENIGMA CHRで集積された2,194名(健常対照HC群1,029名、ハイリスク群1,165名[うち、MRI計測後の追跡調査で精神病発症を確認したPS+群144名、発症しなかったPS-群793名、追跡不能だったUNK群228名])の脳画像データについて、neuroComBat法(Fortin et al., NeuroImage 2018. doi: 10.1016/j.neuroimage.2017.11.024)を用い、機種間差を補正した。
また同様に、この領域においては思春期の患者が多いことから、画像解析で得られる特徴量が病変によるものか、思春期の脳発達変化によるものか判別することも難しい場合がある。研究グループはこの点でも、HC群データのみに一般化加法モデル(GAM※1)を適用するかたちで、男女別の健常思春期脳発達曲線を抽出する手法を投入した(図1b)。その上で、CHR群データにもこの思春期脳発達曲線を適用、「標準からの逸脱度」を抽出した(図1c)。この値を用い、PS+群とHC群について、勾配ブースティング回帰木(XGBoost※2)という機械学習手法により、AIアルゴリズムを構築した(図1c)。
その結果、70%を超える精度を得ることが確認できた(図2a)。このAIモデルでは、右上前頭回、右上側頭皮質、および両側島皮質の表面積が分類に強く寄与しており、過去の研究で着目された脳領域と一致していた(図2b)。
研究グループでは、今回開発したAIモデルは、多施設から得られた脳画像を適切に結合し、思春期の複雑な脳発達変化による影響を考慮することで高い判別率を得られることが特徴であり、今後、臨床現場で必要とされるバイオマーカー開発への応用だけでなく、精神病発症に関わる脳病態の解明に貢献することが期待されるとしている。
※1 一般化加法モデル(GAM)
三次方程式などの線形ではない式を組み合わせ、xとyの複雑な関係を解くことができる統計モデル。
※2 勾配ブースティング回帰木(XGBoost)
教師ありアンサンブル機械学習手法のひとつで、ブースティング(精度を向上させるために複数のモデルを順番にトレーニングすること)と決定木のひとつである回帰木を組み合わせたもの。決定木とは木を逆さまにした形のように、複数の条件に当てはめてデータを分類する手法で、その中でも回帰木は具体的な数値を推定して分類していく。