「絆創膏のように柔らかい」無線型マルチモーダルセンサパッチ開発、ネット接続なしでスマホで表示可能 北大ら
日本の研究グループが、心電図、皮膚温度、呼吸、皮膚湿度を常時連続計測できる、絆創膏のように柔らかい無線型のフレキシブルマルチモーダルセンサパッチを開発したと発表した。取得されるバイタル情報はインターネット接続無しで常時表示することができるという。
バイタルだけでなく姿勢、転倒も検知可能
成果を発表したのは、北海道大学大学院情報科学研究院の竹井邦晴教授、東京大学大学院情報理工学系研究科の中嶋浩平准教授、順天堂大学医学部救急・災害医学講座の渡邉 心先任准教授、大阪公立大学大学院工学研究科の本田智子研究員、大阪公立大学工業高等専門学校の早川 潔教授らの研究グループ。
健康管理に役立つとして、遠隔で常時健康管理を行う時計型のウェアラブルデバイスが各社から発売されて久しいが、一部をのぞいてセンサと体の密着性が悪いものも多く、皮膚表面から安定且つ高精度に計測できるものは多くない。そのため当初期待されていた遠隔診断や遠隔見守り、未病の早期発見に活用できるような社会実装はあまり進んでいない。
研究グループでは課題を克服するため、以下の4点を目標に研究開発を進め、それぞれ成果が得られたという。
(1)皮膚に絆創膏のように密着し、皮膚表面から多くのバイタル情報取得を目指し、柔らかいフィルム上に、心電図(ECG)センサ、皮膚温度センサ、呼吸センサ、皮膚湿度(発汗)センサを集積させたデバイスの開発
(2)柔らかいフレキシブルセンサに無線システムを搭載させ、その得られたバイタル信号をBluetooth を用いてスマートフォン上に送信するシステムの開発
(3)得られたバイタルを瞬時解析する機械学習アルゴリズムの開発
(4)常時・連続バイタル解析アルゴリズムをスマートフォンに実装させ、インターネット接続無しでバイタルデータなどを自動解析し、その結果を表示するエッジ AI システムの開発
開発成果① センサ
センサの作製プロセスを開発することで、ポリエステルフィルム上に心電図、皮膚温度、呼吸、皮膚湿度を常時安定に計測できるセンサを集積化。素材のポリエステルフィルム自体は水蒸気透過性が悪いため、長時間の装着により蒸れや皮膚のかぶれなどの問題が考えられます。そこで蒸れなどを防止する目的で、フィルムに小さな穴を無数に形成することで、高温多湿環境下で本センサシートを 1~2 時間程度貼付しても皮膚のかぶれなどの問題が起こらないことを確認した。
開発成果② 無線システム
(1)で開発したフレキシブルマルチモーダルセンサパッチの出力を無線通信するための無線回路の開発を行なった。センサから得られる電気抵抗値変化をデジタル変換する回路、心電図のような微小信号を増幅する回路、低消費電力で無線通信を行う Bluetooth Low Energy(BLE)、加速度センサも搭載した(図1 右写真内の無線回路)。電源は小型のリチウムイオン電池を採用して 3cm 角程度の小型にまとめ、胸元に貼付しても違和感無く皮膚表面から多種バイタルデータの常時計測ができるようになった。
開発成果③ 瞬時データ解析アルゴリズム
無線マルチモーダルセンサパッチで計測される多種バイタルデータを、瞬時に解析するアルゴリズムの開発を行なった。機械学習の一種「リザバーコンピューター」という高速解析を可能とする技術を適用し、解析パラメーターやアルゴリズムの最適化を図った。計測値には咳や体の動きなどでノイズが生じるが、リザバーコンピューター技術によりノイズの判別に成功。さらに加速度センサの出力結果を解析することで転倒や姿勢の判別なども可能となった。現状の正答率は 80%前後だが、データ解析アルゴリズムを最適化させ汎化を図っているという。
開発成果④ エッジ AI システム
スマートフォンのアプリにこのリザバーコンピューターの解析アルゴリズムを搭載することで、インターネット接続なしでバイタルの無線計測からデータ解析、そしてその結果の表示を行う「エッジ AI システム」を実現した。現状では解析及び表示には 5 秒程度の遅れがあるが、パソコンでの解析結果と遜色ないという。
研究グループでは、開発したセンサの社会実装に向け、現在、医療機関の協力を得て実証試験を開始しているという。実証試験を通してデータ取得、リアルタイム解析ができるようになれば、高齢者、過疎地、そして災害現場などでの遠隔診断や遠隔見守りが実現できると意義を述べている。