リキッドバイオプシーで早期胃がんのリンパ節転移リスク予測に成功、適切な手術選択を可能に 東京科学大

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 がんの手術後の転移リスクについての評価は、現在でも多くが組織検体によるものとなっているが、東京科学大学の研究チームが、早期胃がんにおけるリンパ節転移リスクを治療前に予測可能な、血液検査による予測モデルを開発したと発表した。この予測モデルが臨床応用されれば、本来は必要なかった外科手術を減らせる可能性があるという。

DNAメチル化レベルを測定し、リンパ節転移リスクを予測

図1. 本研究成果の概要。治療開始前に採取した早期胃がん患者の血液検体からDNAを抽出し、メチレーションPCR法を使ってDNAメチル化レベルを測定し、早期胃がんのリンパ節転移リスクを治療開始前に予測するリキッドバイオプシー分子診断モデルを開発した

 研究成果を発表したのは、東京科学大学(Science Tokyo)大学院医歯学総合研究科 消化管外科学分野の奥野圭祐助教、徳永正則准教授、絹笠祐介教授らの研究チーム。早期胃は、胃がんの中でもがんの深達度が粘膜または粘膜下層にとどまるものを指し、リンパ節転移のない早期胃がんは、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡的切除で治療が可能となっている。他方、約10~20%の症例ではリンパ節転移を伴い、外科的な胃切除術とリンパ節郭清が必要となる。

 現行の診断法では、治療開始前にリンパ節転移リスクを正確に評価・診断することが難しく、結果として多くの早期胃がん患者が外科手術などの不要で侵襲的な治療を受けている。治療開始前に早期胃がんのリンパ節転移リスクを正確に評価・診断できれば、不要な治療を回避し、患者一人ひとりに最適な治療を提供することが可能となり治療後の生活の質(QOL)の向上も期待できる。

 近年、このリスクを評価できるバイオマーカーを探索する研究が世界中で進行しているが、多くは手術で切除した組織検体を使用しているため、治療開始前に予測が可能かどうかは明らかではなかった。そこで研究チームは、早期胃がん患者から治療開始前に採取した血液検体を用いてバイオマーカーの探索を行った。

 具体的には、早期胃がんのDNAメチル化データを網羅的に解析、リンパ節転移を伴う早期胃がんに特徴的なDNAメチル化異常を6領域同定することに成功した。これら6領域をバイオマーカーとし、そのDNAメチル化※1レベルを、東京科学大学病院で胃切除術を受けた早期胃がん患者の外科手術検体を用い、メチレーションPCR法で測定。得られたメチル化レベルと術前に撮影したCT画像所見を組み合わせ、早期胃がんのリンパ節転移を予測するモデルを開発した。

 このモデルの判定能を検証したところ、リンパ節転移陽性の早期胃がん患者で有意に高く、AUC※2 0.86、感度70%、特異度95%でリンパ節転移を予測できることが示された(図1)。また、現在外科的胃切除術およびリンパ節郭清を受けている早期胃がん患者の約44%が外科的手術を回避し、内視鏡的切除による治療で対応可能となる可能性が示唆されたという。研究チームでは今後臨床応用に向け、国内外の複数施設で収集した臨床検体を用い、引き続きモデルの検証を行う予定。

※1 DNAメチル化‥DNAの一部に「メチル基」という小さな化学物質が付くことで、遺伝子の働きを調節する仕組みで、遺伝子の配列そのものを変えずに、スイッチのように「オン・オフ」を切り替える役割を持つ。近年、がんや老化、生活習慣病などの研究で注目されている。
※2 Area under the curve (AUC)…バイオマーカーなどを用いたモデルの評価指標として用いられる値で、0.0~1.0の値をとる。値が1.0に近いほどモデルの判別能力が高いことを示す。

論文リンク:Cell-free DNA methylation-based liquid biopsy assay to identify lymph node metastasis in T1 gastric cancer(United European Gastroenterology Journal)

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Posted by medit-tech-admin