ヒト造血幹細胞移植後の予後診断システムを人工知能で開発 ネクスジェンと京都大学ら
白血病等の血液がんに対する造血幹細胞の他家移植の予後診断をより高精度に行える新しい手法が提案された。人工知能(AI)のアルゴリズム構築に、多くの学習モデルを組み合わせた「アンサンブル学習」を用いており、過去の移植治療結果データを基に3ヵ月後および1年後の予後を予測する機械学習モデルを構築したという。
「アンサンブル学習」で高精度な予測能を確立
研究成果を発表したのは、バイオベンチャーのネクスジェン(東京都)、京都大学大学院医学研究科 内科学講座血液・腫瘍内科学の高折晃史教授 、同大学医学部附属病院 血液内科の諫田淳也講師らの研究グループ。ヒト造血幹細胞移植は白血病等の血液がんの完治を目指す主な治療法のひとつだが、ドナーを選別するために用いる既存の指標では移植の予後予測が困難であるという課題がある。そこで研究チームは、過去の移植症例データをベースに、予後予測や患者毎に最適なドナー選択を可能とし、患者QOLを向上させることを目的とした予後予測システムの構築を目指した。
具体的な構築手法としては、さまざまな人工知能の研究で用いられる学習モデルを同時に用いてアルゴリズム構築していく「アンサンブル学習」という手法を採用した。単一で用いられるCox回帰モデル、Random Survival Forest,Dynamic DeepHit, ADABoost, XGBoostといった学習モデルに加え、Extra Tree Classifier、Bagging Classifier、Gradient Boosting Classifierといったアンサンブル学習ではよく用いられるモデルも採用し、それぞれのモデルが出した解析結果を統合することで精度向上を目指そうとするものだ。このアルゴリズム構築と検証には、日本の 17 の移植センターの多施設共同研究グループである「京都増血幹細胞移植グループ」内で移植を受けた2207人の成人患者のコホートが活用された。主要評価項目はGRFS(Graft-versus-host Disease-free, Relapse-free Survival)※1とした。
検証の結果、今回アンサンブル学習で開発した予測モデルは、他の予測モデルよりも優れた予測精度を達成した (3ヵ月後のGRFSにおいてアンサンブル モデル: 0.670; Cox回モデル: 0.668; Random Survival Forest,: 0.660; Dynamic DeepHit: 0.646 )。1年後のGRFSの確率においても、高リスク群で30.54%、低リスク群で 40.69% だった。
今回、研究グループはこのほかに、移植する造血幹細胞の「純度」を高めるため、長期持続的な造血に関与するヒト造血幹細胞だけを抽出・単離できるバイオマーカーを確立し、かつ体外で増幅する移植技術もあわせて開発したと発表した。AIもあわせこれらの技術を用いれば、移植時の副作用軽減、移植後の幹細胞の生着率向上、最適なドナー選択、高精度の予後予測を通じた患者QOLの向上が可能だとしており、さらに種々の細胞治療、再生医療等への応用が期待できるとしている。
※1 GRFS(Graft-versus-host Disease-free, Relapse-free Survival)
移植片対宿主病(GVHD)予防法の複合的評価基準として提唱されている指標。Grade III 以上の急性 GVHD、全身治療を要する慢性 GVHD、再発、死亡の全てが認められない状態と定義される。