治療に必要な薬物分子を体内の必要な部位にのみ届けようとすることで、治療効果の最大化と副作用の極小化を目指す「Drag Delivery System(ドラッグデリバリーシステム、DDS)」の研究が世界各地で行われているが、中国人の研究者を中心とした研究グループが新たな視点での研究成果を発表した。
バッテリーレス・チップレスで軟組織に貼り付け可能
現在、薬剤を体内へ送達する手法は静脈注射や錠剤、湿布など複数存在するが、静脈注射された薬物分子が標的とする組織に到達するのは2%以下であり、大部分は肝臓や脾臓などの単核球貪食系に捕捉されるか、腎臓で代謝・除去されるとする先行研究がある。こうした現状からみて、新規治療法開拓と同程度に送達技術の開発は大きな課題といえる。
この課題に対し北京大学のモー・リー氏らが開発したのは、電荷による薬物分子の効率的な送達を可能とする電子絆創膏「NanoFLUID」。薄く、柔らかく、臓器に直接貼り付けることが可能で、わずか10Vという低電圧で安全かつ効率的に細胞膜を電気穿孔し、薬物や遺伝子の細胞内送達効率を高めるという。
研究チームは様々な疾患モデルでNanoFLUIDの性能を検証した。肝臓の急性損傷修復実験では、治療分子の送達効率を大幅に改善し、組織再生を促進したことが確認できた。また、乳房腫瘍モデルでは、正確なモデリングを達成しただけでなく高効率で低毒性という利点も実証した。細胞生存率への影響は5%未満だったという。
さらにこの乳房腫瘍モデルによる実験では、in vivoレベルで乳がん転移の主要な促進因子を系統的にスクリーニングでき、肺転移に特異的に作用する遺伝子「DUS2」を特定できたという。この遺伝子は腫瘍細胞のタンパク質の翻訳効率を促進し、肺における腫瘍細胞のコロニー形成と増殖を著しく促進することが分かった。研究グループは、このようにNanoFLUIDはDDSとしての臨床応用だけでなく、転移巣に対する特異的な治療標的を発見することにも役立つ可能性があるとしている。
論文リンク:A battery-free nanofluidic intracellular delivery patch for internal organs(Nature)