四肢障害や難病で発話のできない患者が、思い通りにコミュニケーションできる可能性を広げる画期的なシステムを開発したとアメリカの研究グループが発表し、被験者が試用する様子を公開した。
ALS患者の脳に電極設置、脳波を読み取り思考した言葉を抽出
カリフォルニア大学デービス校のデビット・ブランドマン助教授(神経外科)らの研究グループが公開したシステムは、発話を調整する役割を担う脳の領域に4つの小さな電極を取り付け脳波を測定し、脳活動パターンを音素に変換するもの。2023年7月から始まった研究では、このシステムを筋萎縮性側索硬化症(ALS)で発話が難しくなっているケーシー・ハレルさんに使用してもらい、その効果を検証した。このシステムでは、解読された単語がスクリーンに映し出され音声で読み上げられるので、通常通り口頭での会話ができているかのような体験ができる。
3回にわたってシステムを改良するセッションが行われ、最終的にはハレルさんが思考する言葉を8ヵ月以上の期間、97.5%の精度で正しく解読した。ハレルさんは毎分32語以上のペースで、計248時間以上にわたって周囲と会話ができたという。
「言葉が正しく表示され、嬉しくて泣いた」
研究に参加したハレルさんはこのシステムを初めて使った時、言いたかった言葉が正確に表示されるのを見て嬉しくて泣き、家族や研究者も成功に涙した。ハレルさんは「コミュニケーションが取れないのはとてもイライラするし、やる気も出ません。まるで閉じ込められているような感じです。この技術のようなものが、人々が生活や社会に戻る手助けとなるでしょう」と実用化に期待を寄せている。
研究グループはこの新しいシステムを「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)」と呼称し、実用化に向けさらなる研究を進める予定だ。
論文リンク:An Accurate and Rapidly Calibrating Speech Neuroprosthesis(New England Journal of Medicine)