名古屋市立大学をはじめとした日本の研究グループが、MRI画像を人工知能(AI)で解析することで、これまで知られていなかった「経年による脳脊髄液容量の増大」を初めて明らかにした。研究グループでは今後、認知症の早期発⾒と予防を⽬的とした脳ドック検診にも活⽤できる可能性があるとしている。
脳領域別の体積変化も解析、60代以降の急激な脳室拡大も突き止める
研究成果を発表したのは、名古屋市⽴⼤学、滋賀医科⼤学、東京⼤学、⼤阪⼤学、東京都⽴⼤学、⼭形⼤学、洛和会⾳⽻病院、富⼠フイルムからなる共同研究グループ。ヒトの脳⾎液循環と脳脊髄液の動きをコンピューター上で再現して、ヒトの脳の⾃然⽼化現象をシミュレーションし、脳卒中、正常圧⽔頭症、認知症などの脳環境に関連する病態を解明することを⽬指している。
脳は硬い頭蓋⾻と何層かの膜に覆われ、脳脊髄液に浮いて守られている。成⼈の頭蓋内の脳脊髄液の総量は約150mLと多くの医学書に記述されている。健康成⼈においても、脳体積は 20 代から徐々に減少し、減少した分だけ脳脊髄液が増加することが知られているものの、その変化の詳細については明らかになっていなかった。研究グループは脳 MRI から AI を使って正確に脳区域と脳脊髄液を⾃動領域分割し解析する研究を行い、この実態について解明することを試みた。
具体的には、21 歳から92 歳までの健常ボランティア133 ⼈の協⼒を得て、⾼解像度の 3 テスラ MRI 装置を⽤い、頭部の 3 次元 T1 強調 MRI 画像を撮影。脳区域解析アプリケーションにより脳を 21 領域、脳脊髄液を 5 領域に⾃動分割し解析した。その結果、脳の前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉などの灰⽩質体積割合は加齢により 20 代から直線的に減少していた。⼀⽅、神経線維が豊富な⽩質の体積割合は 40 代までは増加し、50 代以降から⼭なりに減少していたが、海⾺や辺縁系などの深部灰⽩質の加齢性変化は少なかった。
こうした脳容積の減少に伴い、頭蓋内の脳脊髄液は増えていくことも分かった。20 代の脳脊髄液の総量は平均約 265mL (20%未満)で、毎年約 3 mL (約0.2%)ずつ増加し、80 歳以上では平均 450mL 以上 (30%以上)となり、従来の常識とは異なっていることが分かった。
またクモ膜下腔の体積割合は加齢により直線的に増加していたが、脳の内側にある脳室の体積割合はは 20 代から 60 代までは 2%未満のまま維持され、60 代以降に急激に増加していることが分かった。研究グループでは健常者でも 60 代以降で脳室が拡⼤してくる機序が、特発性正常圧⽔頭症(iNPH)※1を発症する要因の可能性があり研究を進めるとしている。
※1 特発性正常圧⽔頭症(iNPH)
idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus の略。歩⾏障害、認知障害、切迫性尿失禁をもたらす疾患で、くも膜下出⾎や髄膜炎などに続発する⼆次性正常圧⽔頭症と異なり、先⾏する原因疾患はなく、緩徐に発症して徐々に進⾏する。