国立循環器病研究センターと東京電力パワーグリッドの研究グループは、居宅内の電力使用データを用いて、各家電の使用状況から認知機能低下を予測するモデル作成に世界で初めて成功したと発表した。先行研究で示されている、認知能力低下に伴う気温への感度低下や無関心といった患者への定性的な評価を、家電の使用量データという数値指標に転換させた初の事例といえる。
配電盤に電力センサー設置、家電ごとの電力使用量を解析
研究成果を発表したのは国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部の中奥由里子リサーチフェロー、尾形宗士郎 上級研究員、西村邦宏 部長と東京電力パワーグリッドの研究グループ。高齢社会が進行し、認知症/軽度認知障害(MCI)患者が増え続けると予測される日本においては、既存の検査法より早期発見・医療介入を促進する手法が求められている。そこでグループではより侵襲性が低く、簡便な「家庭内での電力使用データ」と「年齢・教育歴などの患者の基本情報」の解析をベースとする認知機能低下予測モデルの作成を目指し、2019年に前向きの観察研究を行なった。
具体的には、2019年4月から2020年7月までの1年間、宮崎県延岡市に住む65歳以上の地域在住の高齢者(MMSEスコア21以上)78人の自宅の分電盤にインフォメティス社の電力センサーを設置。このセンサーは電力使用量の詳細な解析で、どの家電が稼働していたかまで特定できる仕様で、この機能を活用しエアコンとIH調理器、電子レンジの使用時間を割り出して解析した。78人の内訳は認知障害ありが23人(MMSEスコア平均26)、正常な認知能力の参加者が55人(MMSEスコア平均29)。
その結果、認知能力低下がみられる群は健常群と比べIHの使用時間が短く、電子レンジは春と冬のみ、エアコンは冬のみの使用時間が短い傾向があることがわかった。研究グループでは、これらの傾向は先行研究で、認知症の一般的な症状として報告されている「動機と関心の低下」「温度に対する感度低下」にも一致すると指摘、これに加えて年齢や教育歴などの基本情報を解析対象に加えた予測モデルの精度は82%だったと報告。認知機能低下を高精度に予測することに成功したと結論づけた。
研究グループは今回の成果について「分電盤に高精度電力センサーを設置するだけで、AIを活用し各家電の使用状況から認知機能低下を予測できる」と意義を強調。侵襲性が低く簡易な方法であるため、認知機能低下を早期発見するためのスクリーニング法として期待できるとしている。今後、研究を行なった延岡市で引き続き研究・サービス実用化の検討を続けるという。なお成果は論文としてスイスの科学誌「Sensors」に2021年9月17日付で掲載された。