日本最大級のアトピー性皮膚炎患者向けアプリのデータを活用し、スマートフォンで撮影した皮膚画像を即時に解析してその重症度を判定するAI(人工知能)モデルが開発された。研究グループでは、患者自身が活用するモニタリングツールとしてだけでなく、臨床においても新たな指標となりうるとしている。
「アトピヨ」に投稿された5万7千枚余りの画像からAI構築
成果を発表したのは、慶應義塾大学医学部皮膚科学教室/慶應義塾大学病院アレルギーセンターの足立剛也専任講師(京都府立医科大学兼任)、同教室の雁金詩子助教と、帝京大学医療技術学部視能矯正学科の広田雅和准教授らの研究チーム。
アトピー性皮膚炎の多くは幼少期に発症し、成人期に至る長期的なケア、および個々の患者に応じた治療が望まれる。しかし、長期にわたる通院に伴う時間的・経済的負担など、そうした医療の実現には多くの課題がある。研究グループでは患者が日常生活で気になった皮膚症状について、AIが客観的に判定できることに焦点を当て、アトピー性皮膚炎の患者約 2.8 万人が参加する投稿型アプリ「アトピヨ」(図 1)に蓄積されたデータを活用、AI 技術の開発に取り組んだ。
同アプリは約 5.7 万枚の投稿画像を保有しており、研究グループはこれを教師データやトレーニングデータとしてAIモデルを構築。構築にあたっては、医用画像と異なり光、角度、背景など様々なノイズを考慮し、 3 つのアルゴリズムを統合したモデルを作成した(図2)。皮疹の重症度判定には、各皮疹部を個別に簡便に評価できる Three Item Severity(TIS)※1スコアを用いた。
構築した AI モデルの検証したところ、身体部位の同定率は 98%、皮疹部位の同定率は 100%と高精度を示し、重症度判定も専門医の評価と強い相関(R=0.73, P<0.001;図 3)を示した。これにより、日常生活で得られた画像データを用いたこのAIモデルの有効性が示されましたとしている。また、他の客観的評価指標である objective-SCORAD※2とも比較的高い相関(R=0.53,P=0.04)を示した一方で、患者の主観的評価であるかゆみスコアとは相関が低い(R=0.11)ことも明らかになったという。研究グループでは、これはアトピー性皮膚炎において「見た目の皮疹の重症度」と「患者が感じるかゆみの程度」が必ずしも一致しないことを示唆しており、客観的な症状評価には本モデルのような独立した指標が必要であることを示しているとした。
今後は、患者自身によるセルフモニタリングへの応用や、皮膚症状に応じた個別かつ医学的なアドバイスを自動提供できるシステムの構築、さらに、今回の AI モデルを標準化された評価ツールとして臨床研究に活用し、治療効果の予測や症状悪化の早期検出といった新たな診療支援にも展開していく予定だとしている。
※1 Three Item Severity(TIS):
アトピー性皮膚炎の重症度を簡便に評価する指標で、紅斑(赤み)、浸潤・丘疹(腫れやぶつぶつ)、ひっかき傷の 3 項目を数値化するもの
※2 objective-SCORAD
アトピー性皮膚炎の重症度を医師が評価するための国際的指標。皮疹の広がりや状態をスコア化して総合的にする。患者の主観は含まれない