脳波からアルツハイマー病の推定を可能にするAIを開発、複数の解析手法統合で判別能上昇 千葉工業大ら

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 千葉工業大学、金沢大学、福井大学の研究者からなるグループは、アルツハイマー病に特異的な脳波の時系列パターンを複数の複雑性指標を組み合わせて特定し、さらに機械学習を講じることで、神経ネットワークの変質を推定するアルゴリズムを開発したと発表した。アルツハイマー病の診断補助となる生物学的指標の確立に寄与できるとしている。

 

図 1 アルツハイマー病患者の脳波に対するマルチフラクタル解析とマルチスケールエントロピー解析結果

 研究成果を発表したのは、千葉工業大学 大学院 情報科学研究科 修士課程安藤 桃、同大学 情報科学部 情報工学科 信川創准教授、金沢大学 医薬保健研究域 医学系/子どものこころの発達研究センター 菊知 充 教授、福井大学 学術研究院医学系部門 高橋哲也客員准教授からなる研究グループ。現在アルツハイマー病の診断には、脳萎縮を調べるMRIや脳の血流分布を調べるSPECT、またアルツハイマー病の原因となる脳内アミノイドベータプラークの沈着を可視化するPETなどが活用される一方、脳波や脳磁図、機能的MRIによる神経活動の時間的挙動に基づく研究も盛んに行われている。中でも脳波は時間分解能が高く、神経活動の挙動をダイレクトに捉えられる脳機能画像法であり、安価で非侵襲的であることから高い臨床的汎用性を有していると期待されている。しかし従来の脳波解析法では、アルツハイマー病に特異的な脳活動の時系列パターン(複雑性)を捉えることが難しく、この点に着目した新たな解析アルゴリズムの開発が望まれているという。

 研究グループは今回、脳波の時系列データに対し多時間軸における複雑性を定量化する「マルチフラクタル解析」※1と「マルチスケールエントロピー解析」※2を実施。さらに得られた解析結果を機械学習により統合することで、アルツハイマー病における神経活動の変質を捉えるアルゴリズムを開発した。具体的には、まず 18 名の健康な高齢者と 16 名のアルツハイマー病患者の 1分間の脳波に対して、マルチフラクタル解析とマルチスケールエントロピー解析を実施。結果、アルツハイマー病では脳波における複雑性が低下しており、またその低下は速い時間スケールに集中していることを明らかにした(図1)。さらに、これらの解析結果を機械学習にかけたところ、マルチフラクタルとマルチスケールエントロピー解析の両方の特徴量を組み合わせることが、アルツハイマー病の推定精度を顕著に向上することも確認した。判別能の一般的指標であるAUCで最大0.22程度の精度上昇がみられたとしている。

 研究グループでは、神経ネットワークの変質は、統合失調症や自閉スペクトラム症をはじめとする他の多くの精神疾患においても示唆されており、この解析手法をアルツハイマー病以外の精神疾患に適用することで、将来的に様々な精神疾患の診断補助となる生物学的指標の確立に寄与できるとしている。なお研究成果は査読付き学術雑誌である Frontiers inNeuroscience に掲載された。

※1マルチスケールエントロピー解析
脳波等の複数の時間スケールにまたがる複雑な振る舞いをする生体時系列データにおける複雑性を定量化するため考案された非線形時系列解析手法。今回の研究では各時間スケールでの時間的複雑性を定量化するのに使われた。

 ※2マルチフラクタル解析
時系列パターンの一部が全体の時系列パターンと自己相似的な関係を持つことをフラクタル時系列と呼び、その時系列の複雑さの程度はフラクタル次元で表される。脳波等の非定常性の強い生体時系列データは、単一のフラクタル次元ではなく、複数のフラクタル次元を持つマルチフラクタル性を示すことから、今回の研究では、全体の主要なフラクタル性とマルチフラクタル性の 2 つの尺度で脳波の時間的複雑性を定量化した。

論文リンク:Identification of Electroencephalogram Signals in Alzheimer’s Disease by Multifractal and Multiscale Entropy Analysis(Frontiers inNeuroscience)

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