日本の研究グループが、MRIによる脳の神経経路解析の精度を向上させるAIを開発したと発表した。ヒトの脳構造と近いとされるマーモセットの脳解剖をともなう解析結果を活用しアルゴリズムを開発、従来の解析手法より精確に神経経路を検出できているという。この手法はパーキンソン病やアルツハイマー病などの精神神経疾患に伴う神経経路の変化の解明に貢献するとしている。
「生物進化のしくみにならった最適化手法」で学習、アルゴリズムを開発
開発したのは沖縄科学技術大学院大学(OIST)神経計算ユニットの銅谷賢治教授、理化学研究所脳科学センター、京都大学らの研究グループ。近年、脳を解剖することなく脳の神経経路(コネクトーム)を推定する手法としてMRIを活用する手法が注目されつつあるが、現在その手法で使用されているアルゴリズムでは、脳の離れた領域の間をつなぐ神経線維を検出することが困難であり、またパラメータの設定いかんでまったく違う結果になるという。この課題を克服するため、研究グループではMRIによる従来手法のパラメータ改善を目的に、ヒトの脳構造に近いとされるマーモセットを対象とする、脳解剖をともなう解析結果を比較する機械学習を行った。この際、パラメータの組み合わせを手作業で試す代わりに「進化的アルゴリズム」と呼ばれる手法を使用したという。
具体的には、生物進化のしくみにならい「ランダムな変化を加えた複数のパラメータ」を用意。まずはそれらを活用して拡散MRIデータからコネクトームを推定したうえで、その結果を解剖をともなうマーモセットの推定結果を比較し評価することを繰り返すことで、より評価の高いパラメータを選択し、最適化していく作業を行った。
この「進化的アルゴリズムを複数の脳に対して繰り返しつつ、個々の脳で高い評価を得たパラメータを互いに交換することで、異なる脳に対しても共通に良く働くパラメータが選択されるように学習を実施。最終的には選択されたパラメータを平均することで、異なる脳に共有して最適なパラメータを作成した。結果、現在活用されているパラメータによる推定よりもかなり精確なコネクトームを生成することが確認できたとする。研究グループでは今後の展開として、この手法で人間の脳全体をマッピングし、健康な脳と病気の脳の違いを特定することで、パーキンソン病やアルツハイマー病などの精神神経疾患に伴う神経経路の変化の解明に貢献したいとしている。この研究成果は論文として、2020年12月18日付で科学誌Scientific Reportsに掲載された。