東京大学医学部附属病院とサイオステクノロジー(東京都)らの研究グループは、深層学習を用いた子宮肉腫と子宮筋腫の判別システムを開発し、専門医を上回る読影結果を達成したと発表した。深層学習技術を用いたAIとしては世界初だとしている。
専門医を上回る正診率を達成
研究成果を発表したのは、東京大学医学部附属病院の曾根献文講師、豊原 佑典医師、大須賀 穣教授、黒川 遼研究員、阿部 修教授および、サイオステクノロジーの 野田 勝彦、吉田 要らの研究グループ。悪性腫瘍である子宮肉腫※1は1万人の女性につき5人程度の発症と稀ながんで、希少がんとされる。一方、同じく子宮から発生する良性腫瘍で ある子宮筋腫は成人女性の 20~30%程度が罹患する。双方とも同じ子宮から発生する腫瘍だが、悪性腫瘍である子宮肉腫では子宮全摘手術を行う必要があり、良性腫瘍である子宮筋腫では子宮全摘手術も考慮されるものの、患者が妊娠を希望した場合は子宮腫瘍のみを摘出する方法や、薬物治療などで保存的に経過を観察する方法を考慮するなど、治療法は多岐にわたる。逆に、子宮肉腫で子宮腫瘍のみを摘出するのは腫瘍の播種による予後の悪化が懸念される。そうした意味で、術前診断における両者の鑑別は極めて重要だ。術前診断には血液検査、超音波、CT、MRIなど複数の手法で評価を行い、鑑別精度の向上も図られてきたが、「変性子宮筋腫」などいまだ鑑別が極めて難しい症例が残っている。こうした背景から研究グループは、人工知能(AI)を用いた子宮肉腫の術前MRI画像の診断システムの開発を行い、判別能の評価を行った。
評価にあたっては、東京大学医学部附属病院、東京都立駒込病院、公立昭和病院の3施設における子宮肉腫と子宮筋腫を罹患した患者263例(子宮肉腫:63例、子宮筋腫:200例)の術前MRI画像を対象に実施した※2。深層学習と評価判定は、MobileNetV2というネットワークモデル※3を用いて行った(図1)。
その結果、生成したAIモデルの「子宮肉腫」および「子宮筋腫」の鑑別において、正診率90.3%の結果が得られた。放射線科専門医3名、放射線科専攻医3名が同症例を診断したところ、正診率はそれぞれ、88.3%、80.1%となり、放射線科専門医にも匹敵する成績であったことが確認された(図2)。さらに、AIモデルを臨床の場で利用する際には、放射線診断医の補助的な役割を担うことが重要と考え、AIモデルの判定結果がわかる状態で同様の実験を行ったところ、放射線科専門医群、放射線科専攻医群の成績は、それぞれ89.6%、92.3%と上昇し、このAIモデルが診断のサポートの役割を担うことができる可能性が示唆された(図3)。
研究グループは、今回開発した深層学習による子宮肉腫の術前MRI画像診断システムは世界初であり、深層学習技術の有用性を示すとともに、放射線診断医の診断補助、特に誤診断の予防につながることが示唆されたとしている。
※1 子宮肉腫:子宮から発生する悪性腫瘍です。治療には子宮全摘手術が必要となるが、良性腫瘍の子宮筋腫と似た画像的特徴を持つことがあり、正確な術前診断が必要となる
※2 子宮肉腫の中には「平滑筋肉腫」「内膜間質性肉腫」などさまざまな組織型があるが、今回の深層学習に関しては「子宮肉腫群」および「子宮筋腫群」として学習し、判定も「子宮肉腫」および「子宮筋腫」の2分類とした
※3 ネットワークモデル:深層ニューラルネットワークの構造は多数提案されており、代表的な構造には名称が付与 され、総じてネットワークモデルと呼ぶ