「皮脂」の解析でパーキンソン病の診断支援が可能なことを発見 順天堂大と花王、PFN

 皮脂に含まれるRNAに、パーキンソン病の診断が可能な特徴が発現することを順天堂大とPFNの研究グループが発見した。この発見を元にRNA解析を行うAIも開発しており、今後早期診断が可能になることが期待できるとしている。

1枚のあぶらとりフィルムで皮脂を採取し、次世代シーケンサーで解析

 研究成果を発表したのは、順天堂大学大学院医学研究科神経学の斉木臣二先任准教授、服部信孝教授、花王 生物科学研究所、Preferred Networks(PFN)らの研究グループ。パーキンソン病の日本人における有病率は10万人あたり約140人で、国内では2番目に多い神経変性疾患となっている。症状は徐々に進行するため早期発見と治療開始が求められるが、専門的かつ複雑な検査が必要であるため、より簡便な検査方法が求められている。

 パーキンソン病では皮脂の増加を伴う脂漏性皮膚炎など、いくつかの皮膚症状が高頻度に併発することが知られており、今回、順天堂大学の研究グループは「皮脂にはパーキンソン病と関連した情報が含まれる」との仮説を立て、皮脂RNA※1の網羅的解析技術を保有する花王、機械学習や深層学習などの人工知能関連技術を保有するPFNと三者で共同研究を実施した。具体的には、軽症パーキンソン病患者※2を対象として2回の独立した試験を設定し、グループ1(未治療のパーキンソン病患者7名、健常者13名)、グループ2(未治療および内服加療中のパーキンソン病患者46名、健常者50名)の皮脂RNA情報を比較。皮脂RNAは1枚のあぶらとりフィルムで顔全体から採取した皮脂から抽出し、抽出した皮脂を次世代シーケンサーによる解析にかけ、RNA発現量を網羅的に解析した。

解析の結果、グループ1・グループ2それぞれにおいて約4000種のRNAの情報が得られ、パーキンソン病患者において大きく変化していた約200~400種のRNAに注目したところ、パーキンソン病の病態と密接に関係するミトコンドリア※3に関連した複数のRNAが増加する傾向を発見した。このことから、パーキンソン病患者の皮脂RNAには健常者とは異なる情報が含まれること、さらにそれら皮脂RNAから得られた情報が既に知られているパーキンソン病の病態に関連した変化と矛盾していないことが示されたとしている。

 次に研究グループは、皮脂RNAの情報とExtremely Randomized Trees ※4と呼ばれる機械学習モデルでパーキンソン病を判別できるか検証した。グループ1・2を統合して解析を行った結果、皮脂RNA・年齢・性別情報を用いてパーキンソン病を判別することが可能であることが示された。また、同じ方法を用いてパーキンソン病の重症度※2を予測し、その予測された重症度の数値と皮脂RNA・年齢・性別情報を組み合わせて機械学習モデルを構築することによって、より精度よくパーキンソン病を判別することが可能なことも確かめた。これらの結果から、皮脂RNAに含まれる情報を用いて機械学習モデルを構築することで、パーキンソン病を精度よく判定することができると示されたとしている。

 研究グループでは、あぶらとりフィルム1枚で侵襲を伴わずに採取できることから、簡便なパーキンソン病の検査方法が提供できるとしており、早期診断や先制医療開発の一助となればとしている。この研究成果は英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版に2021年9月20日付で公開された。

*1 皮脂RNA: 皮脂に含まれるRNAを指す。皮脂は皮脂腺に存在する脂腺細胞から全分泌と呼ばれる特殊な機構で分泌されている。脂腺細胞は全分泌において細胞内のすべての成分を放出するとされており、分泌された皮脂の中には脂質だけではなく細胞成分の一つであるRNAも含まれることが報告されている。さらに、皮脂はRNA分解酵素 (RNase)の活性を阻害する作用を持つとされ、分解を免れたRNAが解析可能な品質のまま皮脂に保持されているとされる。
*2 パーキンソン病の重症度: パーキンソン病の重症度の指標として「ヘーン-ヤールの重症度(I~V度)分類」が用いられる。I度が最も軽症であり、V度が最も重症である。I度およびII度をまとめて軽症として扱う場合がある。
*3 ミトコンドリア: ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生に関与する細胞内小器官である。パーキンソン病患者の脳ではミトコンドリアのタンパク質の機能不全によって神経細胞死が起こるとされている。
*4 Extremely Randomized Trees: Extremely Randomized Treesは機械学習の手法の一つである。機械学習の中でも頻繁に用いられるRandom Forestと呼ばれる手法から派生したアルゴリズムであり、 Random Forestよりも効率的にモデルを構築できるという利点を持つとされる。

論文リンク: Non-invasive diagnostic tool for Parkinson’s disease by sebum RNA profile with machine learning(Scientific Reports)