福岡市、福岡市医師会、医療法人社団鉄祐会、インテグリティ・ヘルスケアの4者は合同で記者会見を開き、2017年4月より、福岡市内における「ICTを活用したかかりつけ医機能強化事業」を開始したと発表した。すでに市内の約20の医療機関で実証が始まっている。
「長寿を心から喜べるまち」を目指す、
福岡市健康先進都市計画の具体策
まず会見では福岡市保健福祉局政策推進部 部長 中村卓也氏から、事業開始の背景、あらましの説明があった。
「福岡市健康先進都市計画」
– 7つの重点施策で産官学民一体のまちづくりを目指す
福岡市も今後他地域と同様に少子高齢化を迎え、2030年までに要支援・要介護となる高齢者の数は対2014年比で2倍、そのうち認知症の高齢者は2.2倍以上に増加。また2025年に在宅医療を必要とする高齢者の数も、対2013年比で約2.5倍になると予測されている。このような状況のなか、福岡市では行政施策の再構築だけでなく、行政の範疇を越えた領域で新たなサービス、仕組みの創出を促進する必要があるとし、市民や企業、大学といった様々な方々と一緒に新しい社会システムづくりに取り組む。以下7つの重点施策を掲げ随時進めていくという。
1:155万人がケアに参加するまち
2:制度やサービスの垣根をこえるまち
3:デジタル時代の医療サービスが実現されるまち
4:誰もが楽しみながら健康になれるまち
5:多世代がつながり合い活躍するまち
6:ケア・テック・ベンチャーの拠点となるまち
7:ケアの国際化をすすめるまち
自治体だけではなく、地域にかかわるあらゆる組織・人を巻き込んでいこうとする考え方は、北欧の都市では盛んに取り入れられ実践されているが、日本の大都市ではほとんど例がない。この先進的な取り組みの具体的な柱、「デジタル時代の医療サービスが実現されるまち」の端緒として、この事業が起案された。
「対面診療と補完し合う」遠隔診療を模索
続いて事業を提案し、システムも開発した医療法人社団鉄祐会 理事長でインテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長の武藤真祐氏から、今回の事業とシステムの説明が行なわれた。武藤氏はまず、かかりつけ医が直面する課題に以下の3つがあると提示した。
かかりつけ医が直面している困難の3つ
「受診する」…身体能力の低下などで診療所へ患者が向かうことが困難になる
「症状を伝える」…自分の症状を的確に話すこと/聞き出すことの困難
「治療を続ける」…自己判断などの患者の疾患に関する理解不足などで中断する困難
この課題解決のために今回開発したシステムを投入し、医療の質の向上に貢献するという。システムの概要はこうだ。
「このような端末で入力してもらうことで、ご家族がご本人を前にしては言いづらい症状、たとえば物忘れがひどくなってきた、などの情報も医師に伝わりやすくなり、医療の質が高められる」と、武藤氏はオンラインだからこそのメリットも語った。
「オンラインの問診、診察と従来の対面診察を組み合わせることで、かかりつけ医が患者さんとより深くかかわることができ、安心して医療を受けていただくことができる。この事業で取り組むオンライン診察は対面診療にとって変わるものではなく、補完し合いまたは強化するものだ」と、福岡市医師会常任理事の松本朗氏は、先日の未来投資会議での議論を引き合いに出しながら、今回の事業の意義を訴えた。日本医師会の横倉会長も事業に期待を寄せているという。
4月から福岡市では20弱の医療機関ですでに事業を開始している。実証事業は1年間の予定だが、それ以降も枠組みを考えながら継続を模索する。