AIによる発話解析でパーキンソン病診断の可能性 名大ら
多様な症状を示すパーキンソン病の診断にAI(人工知能)が役立つ可能性が示された。名古屋大学らの研究グループが、認知機能が正常なパーキンソン病患者の発話を解析するだけで、比較的高精度にパーキンソン病の診断ができる可能性があるとの論文を発表した。研究グループではこの成果をさらに進め、他の神経変性疾患での応用も目指すとしている。
識別するための6項目の特徴を選定、全てにおいて有意差
研究成果を発表したのは、名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、横井克典客員研究者(筆頭研究者、国立長寿医療研究センター脳神経内科)、愛知県立大学情報科学部の入部百合絵准教授、豊橋技術科学大学情報・知能工学系の北岡教英教授らの研究グループ。パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで 2 番目に多い神経変性疾患で、その有病率は年齢とともに増加していく。この疾患は動作緩慢、筋強剛、安静時振戦などの運動徴候と、認知、精神、睡眠、自律神経、感覚障害などの非運動徴候によって特徴づけられるが、これらに加えコミュニケーション上の変化もよく見られ、発話、音声、心理などさまざまな要因が影響する。先行研究によると、パーキンソン病患者の 90%以上が何らかの言語障害を経験していると考えられるため、研究グループでは、自然言語処理を用いて発話テキストを解析し、認知機能低下のないパーキンソン病患者における発話変容の病態生理的メカニズムを明らかにすることに取り組んだ。
具体的には、2012 年 4 月から 2020 年 3 月にかけ、認知機能が正常なパーキンソン病患者 53 名(男性 24 名、女性 39 名)、健常対象者 53 名(男性 24 名、女性 39 名)を解析対象とし、会話を録音。その内容を文章に書き起こしたうえでテキスト情報について自然言語処理を用いて分析し、機械学習アルゴリズムを用いて各グループの会話の特徴を明らかにすることを試みた。
まず両群の発話内容の違いを検証したところ、パーキンソン病群と健常対象者群の間で言語流暢性課題(「か」で始まる単語を 1 分間で、できるだけたくさん言ってください)や意味流暢性課題(動物の名前を 1 分間で、できるだけたくさん言ってください)、分の数に有意差はなかったが、品詞の数はパーキンソン病群が健常者群より有意に少ないことが分かった(表 1)。
次に Wrapper 法※1を用いて、パーキンソン病群と健常対象者群を識別するための特徴量を選択する試行を 4 回実施した。10分割交差法の結果、3 回目の試行において、陽性的中率と陰性的中率のバランスを示す値である F 値が最も良好だった。感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は、3 回目の試行ですべて 0.83 を上回った(表 2)。
以上の解析で、研究グループはパーキンソン病患者と健常者を見分けるのに重要な手がかりとして「動詞の割合」「格助詞の分散」「1文あたりの一般名詞の割合」「1文あたりの固有名詞の割合」「1文あたりの動詞の割合」「1文あたりのフィラー※2の割合」の 6 つの特徴量を選択。これらの特徴量を分析したところ、6 項目すべてでパーキンソン病群と健常者群との間に有意差が認められた(図 1)。
研究グループはこの結果より、パーキンソン病患者の会話は健常者と比べ
①自発的な会話で 1 文に話す品詞の数が少なく 1 つの文章が短い
②動詞と格助詞(分散)が多く、名詞とフィラーが少ない
ことなどが分かったとし、これを応用することで、AIは 80%以上の精度でパーキンソン病と健常者を判別できるとした。これらの結果は、自然言語処理による言語解析の可能性を示唆し、パーキンソン病の診断に利用できる可能性を示唆しているとしている。今後の研究として、認知機能の低下を来したパーキンソン病患者の会話の解析や、パーキンソン病以外のアルツハイマー病を中心とする神経変性疾患の患者の会話の解析を自然言語処理により行っていきたいという。
※1 Wrapper 法
複数の特徴を同時に使って予測精度の検証を行い、精度が最も高くなるような特徴量の組み合わせを探索する方法。様々な組み合わせでそれぞれ学習を行わせ、その学習結果をもとに組み合わせに優劣をつけ、有効な特徴量を選択する。
※2 フィラー
「えーと」、「あのー」といった、それ自体には特に意味がない、間をつなぐためのつなぎ文句のこと。