Appleが「ヘルスケア」アプリの機能強化を発表 新たに歩容データ計測、PHRを医療機関や家族と共有可能に
Appleが米国東部時間7日から始まった、開発者向けのイベント「WWDC」の基調講演で、秋以降に正式リリースする各製品向けの各OSの最新バージョンについて発表した。その中の「iOS15」に含まれる「ヘルスケア」アプリについても、大きな機能強化が予定されていることが分かった。
様々な歩容データを取得し、独自の指標で転倒の危険性などを提示
現地時間7日朝に行われたオンラインの基調講演では、同社が展開する各端末向けのOSの今秋以降のアップデート内容が発表された。「iOS15」では、「ヘルスケア」アプリについて一節を設け、担当者が主に3つの新機能について説明した。
1つ目は、Appleが2019年に医療機関らと研究を開始した「Apple Heart and Movement Study」の成果を取り入れたもの。iPhone搭載のモーションセンサーを活用し、歩行速度、1歩1歩の長さ、両足同時に着地している時間などを計測し、研究成果で得られた知見を使い、歩行の安定性や転倒リスクについて3段階で評価する。
計測データや評価内容はヘルスケアアプリ内に表示され、転倒リスクが高い人向けには、筋力や平衡性を高められるエクササイズなどフィットネスのアドバイスも行う。この機能はiOS15以上がインストールされたiPhone8以降の機種で使用できる予定だ。
検査結果に解説を付与、各データの推移についてもレポート
2つ目は、現在のヘルスケアアプリの主機能である様々な検査値やバイタルデータを表示する機能の強化。秋のアップデートでは、検査値を表示するほかに、主な指標、例えばLDLコレステロール値についての解説や基準値、検査結果が基準内に収まっているかや、検査値の推移などを確認できるようになる。
ヘルスケアアプリ内のデータを任意の医師、家族と共有
3つ目はヘルスケアアプリ内に格納される各データを、自身の意思で任意の医師、家族と共有できる機能の追加だ。共有できるデータはアプリで表示できる多くのものと説明しており(発表時点では詳細不明)、他デバイスからインポートされるデータも含まれると思われる。患者から共有されたデータは、対応する医療機関向けの電子カルテシステムで詳細に見ることができる。基調講演では米Cerner社の電子カルテシステム「PowerChart」での画面例が提示されていたが、このほか大手ベンダー5社のシステムも対応を表明した(いずれも米国内)。
また、同様に任意の家族に自身のデータを共有することもできる。共有された家族には自身のバイタルやフィットネスデータ、その推移について共有され、気になる変化があると家族に自動で通知される機能も実装された。データをiMessage(iOS純正のメッセージングアプリ)に添付して会話することも可能だ。なおセキュリティについては、共有の際も以前と変わらず通信経路での暗号化などがなされており、Appleも内容は把握できない。
効率的かつ質の高い医療の提供のため、EHRやPHRの安全な共有とその活用が日本でも長年提唱されているが、Appleが今秋以降提供するこうした機能強化は、その理想形を一気に実現してしまったとも言える。この機能強化のすべてがそのまま日本に適用されることは当面ないと考えられるが、国内の電子カルテベンダーなどがAppleのプラットフォームに乗る動きを見せれば、いわゆる「医療のDX」のかたちがひとつ出来上がることは間違いないだろう。