軽度の認知障害でも、スマホアプリの習得で「展望記憶」改善の可能性 米研究

 一般には高齢者になるほどデジタルデバイスへの親和性は薄れると考えられているが、先ごろ発表されたアメリカの研究で、軽度の認知障害を抱える高齢者でも、スマホアプリの機能を習得するよう介入することを通じ、症状のひとつである「展望記憶」の改善が見込めることが分かった。研究成果が米国内の専門誌に掲載されている。

スマートフォンのボイスレコーダーとリマインダーアプリの機能などをレクチャー

 認知症の中核症状である「記憶障害」のなかでも、明日この場所へ行く、あの人と何時に会う、といった未来の予定に関する「展望記憶」の低下は、日常生活のQOLを低下させるものとして重要視されている。しかし現在のところ、薬物療法を含めこの症状に対する効果的なアプローチは確立していない。米ベイラー大学心理学・神経科学分野のマイケル・スカリン准教授らの研究チームはこの課題に対し、スマートフォンに搭載されているボイスレコーダーアプリ、リマインダーアプリの使用法などを一定期間教えたり、スマートフォンを使用した一定の作業をするよう介入することで、この展望記憶の改善が見られるかを検証した。

 具体的には、軽度認知障害または軽度の認知症の診断基準を満たす55〜92歳の高齢者52人を対象に、ボイスレコーダーアプリまたはリマインダーアプリの使い方を講習。その後4週間、いずれかのアプリを使ってもらうことを含む、スマホを使用して行う作業(指定した日にスマホから電話をする、写真を撮るなど)をしてもらい、作業ができているか、日常生活で展望記憶が必要な行動ができるようになっているかなどをアンケートや構造化面接で評価した。

 その結果、指定した作業の実行率に関しては約半数(51.7±27.8%)だったほか、アプリの使用が増えると、展望記憶の改善や日常生活の行動が改善したと感じる患者が増えたことが確認された。研究チームでは、認知障害のある高齢者においても、スマートフォンを活用したこうした介入には効果があることを示せたとしており、今後より長期的な効果を検証するとしている。なおこの研究成果は論文として「Journal of the American Geriatrics Society」に掲載されている。

論文リンク:Using smartphone technology to improve prospective memory functioning: A randomized controlled trial(Journal of the American Geriatrics Society)