ウェアラブルデバイスを活用し、ドラム演奏時の運動解析で認知症重症度をスクリーニングする手法開発 東大

 日本の研究グループが、認知症患者がドラムを叩く際の腕の動きをウェアラブルデバイスで測定・解析することで、認知症の重症度を判定できる可能性があると発表した。ドラムを叩く腕の角度と認知症の重症度は相関しており、認知症が重いほど、ドラムを叩く腕が上がっていないという。リハビリや音楽療法といった高齢者向けのプログラムを通常通り実施しながら簡便に認知機能低下の可能性をスクリーニングできる手法として注目される。

施設で通常通りのプログラム実施中にスクリーニングできる可能性を示唆

(図1)老人ホームでの研究実施の様子

 研究成果を発表したのは、東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の宮﨑敦子特任研究員と檜山敦特任教授らの研究グループ。これまでの先行研究で、上肢の運動機能の低下は認知機能の低下や認知症と関連することが報告されているが、認知症がある場合、認知機能の低下やその中核症状である失行※1により、機能評価をすること自体が困難な場合がある。研究グループではそうした場合でも運動機能評価が可能な手法の開発に取り組んでおり、今回、重度の認知症になっても維持される「リズム反応運動」に着目し、ドラムを叩く動作を行なってもらう音楽療法中に時計型のウェアラブルデバイスを装着してもらい、上肢の運動を評価する方法を着想した。

(図2)ドラム演奏中の腕の動きの計測 利き手の手首に加速度センサとジャイロセンサを搭載した腕時計型ウェアラブルセンサを用いて、ドラム演奏時の腕の動きから腕の振りの速さの平均値(m/s)と腕の挙上角度の平均値(°)を測定

 具体的には、特別養護老人ホームに入居中の高齢者を対象として、利き手の手首に加速度センサとジャイロセンサを搭載した腕時計型ウェアラブルセンサを装着してもらい、グループで行なうドラム演奏中の腕の振りの速さの平均値と腕の挙上角度の平均値を抽出した。その結果、ドラム演奏中の腕の挙上角度が従来の上肢運動機能評価で使われる握力と相関を示しており、上肢運動機能を測定するための有効な評価方法であることが確認された。

 次に、ドラムの動作が認知機能に関係しているかを調査したところ、ドラム演奏時の腕の挙上角度が全般的な認知機能と関連しており、認知症が重いほど、ドラムを叩く腕が上がっていないことが明らかになった。さらに、今回新たに発見された「ドラム演奏時の腕の挙上角度」と従来の機能評価指標のひとつである「握力の両方を用いたモデルが、認知症高齢者の認知機能障害を説明するのに優れていることも判明した。また認知症重症度とドラムを叩く速さは関係がなく、認知症があっても叩けることも分かった。

研究グループは、認知症スクリーニングにおける、特にすでに認知症を発症している患者の拒否反応などの障壁を減らすには評価方法のバリエーションを増やすことが重要であり、今回開発した手法が普及すれば、認知機能低下の早期発見に貢献するだけでなく、症状の重い患者を人道的かつ尊厳をもって対応することが可能になるとしている。

論文リンク:Association Between Upper Limb Movements During Drumming and Cognition in Older Adults with Cognitive Impairment and Dementia at a Nursing Home: A Pilot Study(Frontiers in Rehabilitation Sciences)