加齢に伴う聴力低下で「孤独感」を感じていると、要介護状態の新規発生に影響を与える——。国立長寿医療研究センターが、国内5,000人規模の高齢者を調査して関連性を初めて明らかにした。介護予防戦略において「孤独感」は特別な注意を要するとしている。
「孤独感」のあるなしで明らかな違い
研究成果を発表したのは、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センターの冨田浩輝研究員、島田裕之センター長らの研究グループ。近年、社会的孤立や孤独は、身体的・精神的疾患等の健康問題と関連し、医療・介護コストを増大させることも指摘され、喫緊の課題として世界的に注目されている。他方、老年症候群の最も一般的な症状の一つである聴力低下は、他者とのコミュニケーションを制限し、うつ病や孤独感など様々な精神心理症状を引き起こす危険因子であるため、身体的・社会的フレイルとも関連することが報告されている。ただし聴力低下が孤独感と要介護状態の新規発生に与える影響については、これまでほとんど検討されてこなかった。
研究グループでは、国立長寿医療研究センターが実施している、老年症候群のリスク把握や効果的な対処方法を明らかにするための大規模コホート研究(National Center for Geriatrics and Gerontology–Study of Geriatric Syndromes:NCGG–SGS) に参加した、愛知県東海市在住の 65 歳以上の高齢者 5,563 名を聴力低下の有無により層別化し、孤独感と要介護状態の新規発生との関連を縦断的に分析する研究を行った。具体的には、孤独感を「UCLA 孤独感尺度: 第 3 版(University of California, Los AngelesLoneliness Scale)」で尋ね、聴力低下については、難聴高齢者のハンディキャップスクリーニング検査(Hearing Handicap Inventory for Elderly-Screening : HHIE-S)で評価した。
結果、参加基準を満たした対象者 4,739 名のうち、947 名(20.0%)に HHIE-S 9 点以上と聴力低下が見られた。要介護状態の新規発生は、聴力低下のない群では 4.5%であったのに対し、聴力低下のある群では 8.3%と、新規発生率の割合がχ2検定にて有意に高いことが示された(χ2値 = 21.9, p < 0.05)。
孤独感の有無を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析の結果、対象者全体(4,739名)では、男性、教育年数が少ない、現在は仕事をしていない、一人暮らしである、運動習慣がない、難聴の重症度が高い、うつ傾向といった特徴のある人が、孤独を感じやすいことが示唆された(表1)。
次に、聴力低下のなし群と聴力低下あり群で分類した、孤独感と要介護状態の新規発生に関するカプランマイヤー生存曲線を作成した(図 1-A、図 1-B)。年齢、性別、教育年数、および孤独感の潜在的な交絡因子とされた変数により調整した Cox 比例ハザード回帰分析の結果、最初の調査から 24 ヵ月後、聴力低下なし群では、孤独感は要介護状態の新規発生と有意な関連は認められなかった一方、聴力低下あり群では、孤独感を有する場合、約 1.7 倍も要介護状態の新規発生が多く認められました(オッズ比:1.71, 95%信頼区間:1.05-2.81)(図 1-B)。
研究グループはこの結果に関して、聴力低下は老年症候群の最も一般的な症状であり、さまざまな危険因子の中でも孤独感は、聴力低下のある地域在住高齢者の介護予防戦略において、特別な注意をする必要があると考えられるとしている。