筑波大学の研究グループが、言葉による質問などを行わずにタブレットで描画させるだけで、高齢者の認知機能低下を検出できるツールを開発したと発表した。解析アルゴリズムはアメリカの高齢者のデータで開発し、検証は日本人の高齢者のデータで行って有用性を確認しており、地域を問わず世界的に展開可能なものだとしている。
研究成果を発表したのは、筑波大学医学医療系(筑波大学附属病院精神神経科)の新井哲明教授を中心とした研究グループ。アルツハイマー型をはじめとした認知症による認知機能低下の検出には、通常、 専門家による認知機能検査が用いられるが、専門医が患者に応対し、定められた設問や課題に答えてもらう必要がある。研究グループはより実施しやすく高精度なツールを開発するため、タブレットとAIを活用した新たなアプローチを試みた。
今回開発したツールでは、高齢者がタブレット端末に描画したデータから「描画速度」「静止時間」「筆圧」「ペンの傾き」などを自動で分析し、AIを活用して認知機能の低下の程度の推定を行う(図1)。アルゴリズム開発にあたってはまず、日本とアメリカにおいて、認知症の診断を受けていない65歳以上の高齢者男女92人(日:37 人、米:55 人)を対象として、認知機能検査と開発したツールによる描画タスクを実施した。データ解析の結果、認知機能が低下するにしたがい「描画速度のばらつき」や「静止時間の増加」といった傾向が、日本とアメリカの高齢者に共通してみられたことを確認した。この傾向は、年齢・性別・教育歴などを考慮しても統計的に有意であることも確認した(図2A)。次に、描画動作の特徴のみから認知機能のレベルを自動で推定するためのモデルを、AI 技術を活用して構築し検証を行ったところ、アメリカの高齢者から収集したデータを用いて構築したモデルは、日本の高齢者の認知機能のレベルを高 い精度で、かつ、描画や音声といった行動データから認知機能のレベルを推定する従来のモデルよりも正 確に推定することに成功した(図2B)。
研究チームは、今回の研究成果は、普及が進むタブレット端末を用い、在宅や介護予防教室などの多様な環境で手軽に認知機能の評価ができる可能性を示しているとし、特に言語に依存しない描画データを解析対象とすることで、国や地域に関わらず利用できるとした。認知症の診断率は、中・低所得国でとりわけ低く90%以上の認知症者が未診断なまま適切な治療を受けられていないと言われており、こうしたツールは高齢社会に突入する各国にも大いに役立つものとなりそうだ。