豊橋科学技術大の研究グループが、超低濃度の腫瘍マーカーを検出可能な半導体センサを開発し、前立腺がん抗原のみを検出することに成功したと発表した。半導体技術により数ミリ角のサイズで検査チップを形成できており、将来的にはIoT バイオセンサとして家庭内検査の実現にも期待できるという。
リキッドバイオプシーをはじめとした、主にがんの早期発見を目的とした新しい検査技術の研究開発が盛んだが、実用化されているマーカー検査装置は標識剤を用いて色の変化を読み取る検出方式であり、標識を行う時間と手間がかかるため比較的大型な装置が多く、規模の大きい病院等での検査に限定されている。豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系の髙橋一浩准教授、博士前期課程 2 年の前田智也氏らからなる研究チームでは今回、携帯可能なIoT バイオセンサが実現すれば、検査機会の拡充、遠隔医療への貢献が期待できるとして、そのための中核技術となりうる半導体マイクロマシン技術で形成した、フレキシブルに変形するナノシートを用いたマイクロ検査チップを開発した。
原理としては、ナノシートの上に検出対象のマーカー(抗原)分子を捕捉できる抗体をあらかじめ固定しておき、そこに吸着した抗原同士が電気的に反発する力により生じる薄膜の変形を読み取る検出方法を採用した。従来は分子を固定化する処理の過程でナノシートが劣化する課題があったが、材料を変更するなどで克服できたという。開発したバイオセンサを用い、前立腺がんバイオマーカーの検出実験を行ったところ、1ミリリットル中に含まれる 100 アト※グラム(モル濃度換算で 3 アトモル)の抗原の検出に成功した。この検出下限濃度は、標識剤を使った大型の検査装置と比較しても同程度で、携帯可能な規模の検査装置で超高感度な検査が期待できる。さらに、分子の吸着によりナノシートが変形していく様子をリアルタイムで検出することが可能であるため、標識剤を使った検査装置と比較しても、病気由来の分子を迅速に検出することが可能だという。
研究チームでは、ナノシートの表面に修飾するプローブ分子を付け替えれば複数種類の網羅的な病気診断が可能となることから、早期発見に繋がる検査技術となることが期待できるとしており、今後、実用化に向け分析用集積回路を一体化した半導体センサ上でバイオマーカーを検出できることを実証する予定。
※アト・・・100 京分の 1、10-18