専用装置で行うことが必要となる骨粗しょう症検査にイノベーションを起こす成果が奈良先端大をはじめとする研究グループから発表された。人工知能(AI)をを用い、より一般的なX線画像のみから骨密度を精度高く測定できるという。現在、上市に向け製品化の取り組みを加速させている。
専用装置やCTでの検査とほぼ同等の精度を達成
研究成果を発表したのは、奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域の博士後期課程Gu Yi(コク イ)、大竹義人准教授、佐藤嘉伸教授、大阪大学医学系研究科 運動器医工学治療学講座の上村圭亮講師、菅野伸彦教授、愛媛大学整形外科の高尾正樹教授、大阪大学医学系研究科 整形外科の岡田誠司教授による研究グループ。
現在、骨粗鬆症の診断は DXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry※1と呼ばれる骨密度計測専用の装置を用いて行うことが必要で、また、ベッドに横になって正しい姿勢での撮影が必要で一人の患者の計測に20~30分かかってしまうという課題がある。超高齢社会の日本では、大腿骨骨折による寝たきりが問題となっており、精度を担保しながらより簡便、かつ迅速に行える検査方法の確立が重要な課題だ。今回、研究グループでは、より一般的に使われている、いわゆるレントゲン検査で得られるX線画像を活用した骨密度検査の可能性を検証した。
具体的には、315 名の患者から収集した X 線画像(2 次元画像)と CT 画像(3 次元画像)のペアのデータに基づいて、CT 画像から筋肉や骨格を別々に自動認識する AI の技術と、CT・X 線双方の画像を重ね合わせて表示する技術を結び付けた。この方法により、X 線画像のみからDXA やCT で計測したのとほぼ同等の精度での骨密度計測ができる AI を構築できたという。
開発したシステムの性能を検証したところ、DXA(上段)および QCT(下段、※2)で計測した骨密度(横軸)と本システムで予測した骨密度(縦軸)の散布図。従来法(左列)に比べ提案法(右列)の精度が大幅に向上していることを確認できた。さらに、JPEG 圧縮により画質が劣化した X 線画像に対する推論実験も行ったところ、入力する X 線画像のファイルサイズを元画像の 50 分の 1 以上小さく圧縮した場合でもほぼ同精度だった。
研究グループでは、X 線画像はDXAと異なり、小さなクリニックや移動型の検診車などでも撮影が可能でかつ立ったままでの撮影が可能なため、患者一人あたりの計測時間を 1~2 分まで短縮でき、コストも大幅に削減できるとしている。精度が高く、スクリーニングだけでなく診断にも用いることができるため普及できる見込みが高いと考えられており、現在AMED(日本医療研究開発機構)の研究事業と日本整形外科学会プロジェクト研究に採択され、製品化への取り組みを進めているという。
※1 DXA (Dual-energy X-ray Absorptiometry)
現状、骨密度を測定するためのゴールドスタンダードとされる技術。特殊な計測装置が必要で、患者はベッドに横になる必要があるため一人の計測に 20~30 分の時間がかかる。
※2 QCT (Quantitative CT)
輝度値を正確に校正した CT 画像を用いることで、3 次元的な骨密度の高精度測定が可能となる技術。2 次元投影像で計測する DXA よりも高精度に測定ができるが、被ばく量が多く、何度も繰り返し測定することは難しい。