施設によってデータの差が顕著だったfMRI(機能的磁気共鳴画像)の差をAIによって埋め、どの施設でも活用可能な世界初のうつ病の「脳回路マーカー」が開発された。臨床応用を進め、2022年度にはプログラム医療機器としての承認、保険適用を目指すという。
各施設のfMRIデータを統合してビッグデータ化、機械学習でAI開発
開発したのは山下歩研究員らATR脳情報通信総合研究所、広島大学、東京大学、昭和大学、京都大学、山口大学、理化学研究所の研究グループ。fMRI(機能的磁気共鳴画像)はその安全性や情報量の多さから実用化の期待は高いが、計測した施設によってデータの性質が異なるという実用上極めて大きな課題があり、これまで精神医学の臨床現場での診断にほとんど利用されていない。研究グループは以前の研究で、複数の施設から集められた脳画像データから測定方法の違いによる施設間差のみを除去する「ハーモナイゼーション法」を開発しており、今回この手法を活用し、異なる複数施設で取得したfMRIデータを、施設間差を除去した均質な大規模データ(総数1,584例)として統合。次に、この大規模データに機械学習を適用して、個人の脳回路に基づき健常者と大うつ病患者を判別する、大うつ病の脳回路マーカーを開発した。この脳回路マーカーは、異なる施設で撮像された完全独立データについても健常者と患者を約70%の確率で判別でき、施設に関係なく有効であることを以下のように確認している。
産学連携で民間企業がプログラム医療機器として実用化へ
研究グループは今回開発した手法の臨床応用を目指している。具体的な活用フローとしては、MRI撮像に加え10分間程度のfMRI撮像を行い、このデータをもとに、医師が院内の専用端末から院外の「うつ病脳回路マーカー」を搭載した解析処理サーバに脳画像を送付。自動解析が行われ、結果は端末側プログラムに表示されるというものだ。医師は返された結果を参考情報として臨床的判断を行い、治療を開始することができる。
実用化に向け規制官庁のPMDA(医薬品医療機器総合機構)と相談を行い開発プロセスを担うのは、ATRからスピンアウトしたAIベンチャーXNef社。これまでにも独自のニューロフィードバック理論に基づく疼痛管理の新しい治療法の可能性を提示した研究を発表している(既報)。現在までに医療機器開発前相談を含め7回にわたり相談済みで開発方針に関してコンセンサスを得ており、2021年度に承認申請を行い2022年度中の承認取得を目指している。最終的には保険適用を視野に入れているという。なおこの成果は論文として、学術誌「PLOS Biology」に米国東部時間2020年12月7日付で掲載されている。