月経痛の重症度判定が可能なバイオマーカーの特定に成功、リキッドバイオプシーで検出可能 京都大

 明確な重症度判定の指標がなかった月経痛について、京都大学の研究グループがバイオマーカーの探索に成功したと発表した。指先からの少量の血液採取、リキッドバイオプシーで検出が可能だとしており、実用化されれば適切な治療や支援のきっかけとなることが期待される。

分岐鎖アミノ酸(BCAA)と特定のリン酸(PI)をバイオマーカーとして特定に成功

 重度の月経痛(月経困難症)はQOLや生産性に大きな影響を与えるが、苦しむ本人や、治療にあたる医師がその重症度を評価できる客観的な指標がないため、病識を持てず受診が遅れ、子宮内膜症や子宮筋腫といった婦人科疾患の発見が遅れる可能性も指摘されている。この課題を解決するため、京都⼤学⼤学院医学研究科の杉浦悠毅 特定准教授は、ライオン株式会社との共同研究で月経痛の重症度を判定するバイオマーカーの探索を試みた。

 具体的には、血中(血漿)の代謝産物※1に着目し、健康な⼥性 20 名(平均年齢 31 歳)を⽉経痛の軽い⼈(12 ⼈)と重い⼈(8 ⼈)に分け、指先から 採取した⾎漿のメタボローム解析を行なった。メタボローム解析では質量分析装置※2を⽤いて、アミノ酸や脂質といった分⼦を網羅的に解析することが可能で、その結果、⽉経痛の重さに応じた有意な代謝変動が⽣じており、中でも親⽔性代謝物(アミノ酸など)と脂質(リン脂質など)が⽉経痛の重症度の判別に寄与していることを確認。さらに、そのなかでも分岐鎖アミノ酸(BCAA)と特定のリン酸(PI)が有望なバイオマーカーであることが⽰唆されたため、研究グループはこれらの代謝産物による⽉経痛の重症度の判別精度を⾼めるため、代謝産物の⽐率を計算し検証した。結果、単独の代謝産物と⽐較して優れた判別精度を有することを確認した。

 また、これらの⽐率は、⽉経周期における 3 つの期間いずれにおいても、主観的な痛みの評価結果と正の相関を⽰し、⽉経周期に関係なく⼀貫して⾼い判別精度を⽰した。さらに加えてこれらの⽐率は、 同じ試験参加者における追加の⽉経周期 2 周期においても相関性を維持したことから、BCAAと特定のPIの量⽐は⽉経痛の重症度を判別するために有効な指標であると考えられるという。

 研究グループでは、今回の成果で確度の高いバイオメーカーを特定したとしており、特にリキッドバイオプシーで少量の血液検査から次の月経痛の強さを予測できる可能性を示した意義は大きいとしている。

※1 代謝産物:体内で代謝によって⽣成される化合物。⾷物や薬物の代謝、細胞活動に関連し、バイオマーカーや健康状態の評価に活用される。
※2 質量分析装置:物質の質量を測定する⼿法。分⼦の構造や組成を解析するために活用される。

論文:Branched-chain amino acids and specific phosphatidylinositols are plasma metabolite pairs associated with menstrual pain severity(Scientific Reports)