アルツハイマー病診断のための最適な脳脊髄液バイオマーカーの組み合わせを発見 新潟大脳研究所
新潟大学脳研究所が、国内の複数の施設から収集された558名の脳脊髄液を解析し、診断に最適なバイオマーカーの組み合わせを発表した。またこのバイオマーカーの組み合わせをもちいて、リアルワールドにおけるアルツハイマー病の有病率を明らかにしている。
臨床における有用性も検証
研究成果を発表したのは、新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野の春日健作博士(助教)と池内健博士(教授)。アルツハイマー病は臨床的には緩徐に進行する物忘れを特徴とし、病理学的にはAβの沈着、タウの蓄積、神経細胞の減少(神経変性)を特徴とする。しかし、臨床症状と病理変化の一致率は高くなく、臨床症状からアルツハイマー病の病理変化を検出するには限界があるとされてきた。
研究グループはこれまで、アルツハイマー病診断における脳脊髄液バイオマーカーの有用性を研究コホートにおいて示してきた。特にAβ沈着マーカーとして「Aβ42」、タウ蓄積マーカーとして「リン酸化タウ」、神経変性マーカーとして「総タウ」を、それぞれ評価することで生前に脳内の病態を詳細に把握できることを報告してきている(Kasuga K, et al. BMJ Neurol Open 2022)。
一方で、これまでAβ沈着マーカーとして「Aβ42」単独ではなくAβ40を参照としたAβ42の相対量(Aβ42/Aβ40比)の有用性、および神経変性マーカーとして従来からの「総タウ」に代わり「ニューロフィラメント軽鎖」の有用性がそれぞれ報告されている。ただしこれまで本邦の実臨床においてこれらバイオマーカーの組み合わせによる診断への有用性に関する報告がなかったため、今回、国内の複数の施設で、診断目的に採取された558名の脳脊髄液を用い、これらバイオマーカーのリアルワールドにおける有用性を検証した。
具体的には、2013年10月から2022年6月までの期間に診断目的に採取された558名の脳脊髄液を、臨床診断から「アルツハイマー症候群」と「非アルツハイマー症候群」に分け、脳脊髄液中の「Aβ42」、「Aβ42/Aβ40比」、「リン酸化タウ」、「総タウ」、「ニューロフィラメント軽鎖」を測定し、比較・解析した。
Aβ沈着マーカーに関し、アルツハイマー症候群では「Aβ42」と「Aβ42/Aβ40比」の一致率が高い一方、非アルツハイマー症候群では「Aβ42」が異常値を示すものの「Aβ42/Aβ40比」は正常な「見かけ上のAβ沈着」を示す症例が約1/4も存在していた。
神経変性マーカーに関しては、アルツハイマー症候群・非アルツハイマー症候群ともに、「総タウ」より「ニューロフィラメント軽鎖」の方が異常値を示す頻度が高く、「ニューロフィラメント軽鎖」は「神経変性」をより高い感度で検出するマーカーと考えられた。
これらを組み合わせて検証したところ、アルツハイマー症候群の約60%のみが生物学的アルツハイマー病と考えられ、残る40%弱は脳内の病態は非アルツハイマー病ながら臨床的にアルツハイマー症候群と誤診されていると考えられた。また非アルツハイマー症候群の1/4は生物学的アルツハイマー病と考えられ、非典型的アルツハイマー病もしくは非アルツハイマー病にアルツハイマー病が合併している症例が少なからず存在していることが示唆された。
研究グループでは、脳脊髄液バイオマーカーを日常診療に活用することで、軽度認知障害~認知症の方の原因がアルツハイマー病か否かを正確に診断し、適切な治療につなげられる可能性があるとしており、今後は、より簡便に採取できる血液をもちいたバイオマーカーによる診断法の開発が望まれるとしている。