がん免疫療法が有効な患者を血中アミノ酸プロファイルで識別する方法を発見 久留米大ら

 日本の研究グループが、治療前の血液中のアミノ酸プロファイルを調べることで、がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)が有効な患者を識別できることを明らかにした。アミノ酸プロファイル解析がバイオマーカーとして臨床応用されれば、いわゆる「プレシジョンメディシン」が可能となるとして実用化へ向け研究を加速させる方針だ。

免疫細胞の遺伝子解析で関係性を発見

 研究成果を発表したのは、久留米大学医学部医学科 内科学 呼吸器神経膠原病内科部門、神奈川県立がんセンター臨床研究所 がん分子病態学部、味の素 バイオ・ファイン研究所らの共同研究グループ。免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1/PD-L1抗体)を使用するがん免疫療法が実用化されているが、患者により臨床的効果が異なったり、重篤な副作用を併発することもあるため、効果の期待できるがん患者だけを識別する手法の確立が求められている。研究グループでは、血中アミノ酸・代謝物パラメーターの組み合わせによりがん患者の免疫状態を把握し、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測できるかどうかを検討した。

 具体的には、抗PD-1抗体治療を受けた進行・再発非小細胞肺がん患者53例の治療前の血中アミノ酸とその代謝産物(36種類)の濃度を質量分析計を用いて測定し、全生存期間との相関を検討した。4種のアミノ酸・代謝物(アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸)濃度を組み合わせて作成した判別式を用いると、治療効果の高い患者を高精度に選別できることが判明した(図1左)。なお、腫瘍組織でのPD-L1発現の高い患者群においても治療効果が予測できた(図1右)ことから、バイオマーカーとしての新規性・有用性も確認できたとしている。

 次に研究グループは末梢血単核球における遺伝子発現を解析し免疫細胞の頻度を調べ、無効群に比べ有効群ではCD8陽性T細胞やマクロファージ(M1型)※1の頻度が高いことを突き止めた。さらに、患者選別に有効であった4種のアミノ酸・代謝物(アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸)濃度と免疫関連遺伝子の発現との相関を調べたところ、アルギニン・セリン・グリシン濃度がT細胞関連遺伝子と正の相関を、マクロファージ(M2型)※2遺伝子と負の相関を示すこと、キノリン酸濃度はT細胞関連遺伝子と負の相関を、マクロファージ(M2型)遺伝子とは正の相関を示すことを発見した(図2)。これらの結果から、末梢血のアミノ酸プロファイルががん患者の免疫状態を反映するものと推定されるという。

 これらの結果を鑑み、研究グループでは最後に末梢血単核球におけるアミノ酸代謝関連遺伝子の発現を調べ、有効群と無効群において発現差を認める12種類の遺伝子を同定した。これらのアミノ酸代謝関連遺伝子の発現と患者選別に有効であった4種のアミノ酸・代謝物(アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸)濃度との相関を調べたところ、多くの遺伝子において正あるいは負の相関が認められたという。特に、3種類のアミノ酸代謝関連遺伝子(SLC11A1、HAAO、PHGDH)の発現量と免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果とが相関することが明らかになった(図3)。これらの結果から、アミノ酸代謝関連遺伝子の発現を介したアミノ酸プロファイルの変化ががん患者の免疫状態を制御し、免疫チェックポイント阻害薬に対する治療効果に影響を与えている可能性が示唆された。

 研究グループでは、アミノ酸プロファイル解析が免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果を予測するバイオマーカーとして臨床応用されれば、「個別化がん免疫治療」が可能となり、高い効果の期待される患者を選択することによる治療成績の向上や、不必要な治療による不利益(有害事象合併・医療費浪費)の回避につながるものと期待できるとしている。

※1、2 マクロファージ(M1型、M2型)
M1型はがん細胞を攻撃する免疫機能を高め、免疫治療の効果発揮に重要とされる。M2型はがんに対する免疫機能を抑制する細胞であり、がんの進行を促すとされる。

論文リンク:Clinical Significance of Plasma Free Amino Acids and Tryptophan Metabolites in Non-Small Cell Lung Cancer Patients Receiving PD-1 Inhibitor: A Pilot Cohort Study for Developing Prognostic Multivariate Model(Journal for ImmunoTherapy of Cancer)