放射線治療で患部だけを照射し健全な組織に影響を与えないようにすることは非常に重要な課題だが、このほど筑波大の研究グループが、リアルタイムで撮影する臓器画像の解析及びそれに基づいた画像選択で、臓器の動きを予測する技術を開発した。2次元画像の解析で、画像導出により時間のかかる3次元画像による解析とほぼ同等の結果が出せたとしている。
2次元画像の適した選択とその解析で、3次元画像での解析に迫る精度を達成
がんなどに用いられる放射線治療は低侵襲で通院治療が可能なため社会復帰が早く、さらに普及が望まれる治療法のひとつであるが、動きのある病変組織のみに対して強い放射線を当てることは容易ではないという。特に周辺臓器との接触などによる不規則な動きは予測が困難とされる。近年、リアルタイムで患部付近の断面情報(二次元画像)をMRI撮影しながら放射線治療を行うMR-Linacなどが実用化されているが、治療中に撮影できる断面は数枚程度であり、臓器の三次元的な動きまで計算するにはデータが不足している。
筑波大学の黑田 嘉宏 教授(システム情報系)の研究グループはこの課題に対し、治療前に、患者本人の三次元画像から対象臓器および周辺臓器を含む三次元モデルを構築しておき、リアルタイムで撮影した断面情報から断面内の臓器の移動を計算し、接触シミュレーション※1により三次元的な動きを予測する技術を開発した。断面情報を撮影できる放射線治療装置と併用すれば、患部の位置をより正確に把握できるというものだ(図1)。
またこの技術の性能を発揮させるサブセットとして、典型的な臓器の変形パターンに対して、ある断面を選んだときの推定の正確さを計算し、これらを対応付けるモデルも開発した(図2)。これにより、高い割合(決定係数0.9以上)で、最適な断面情報を選択できることも確認確認した。
これらの技術の検証として、MRIデータが公開されている20症例について、本技術で膵臓の位置を計算した。結果、その誤差は、3方向の断面(体軸・矢状・冠状断面)のうち1方向(体軸断面)のみを用いた場合には5.11mm、3方向すべての断面を用いた場合には2.13mmであったことから、より多くの断面情報を用いるほど正確に動きを計算できることが分かった。研究グループでは、この技術は周辺の健康な臓器への放射線照射を避け、治療効果を高める技術として実用化が期待できるとしている。