AIのアルゴリズムを構築する手法として、教師データを不要にできる深層学習への注目が高まっているが、広島大学の研究グループがその手法の一つである「GAN」を活用した臓器の頭頸部各部の輪郭認識AIを開発したところ、従来手法で構築したAIよりも精度が著しく向上したと発表した。研究グループでは、この技術は最新の放射線治療に必要なMRI画像解析を行なっているため、臨床応用においても自動化・省力化を目指せるとしている。
GAN=「生成するAI」「監視するAI」が競い合いアルゴリズムを磨き上げる手法
広島大学大学院医系科学研究科 河原大輔助教、永田靖教授らの研究グループと日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の医学物理ワーキンググループである西尾禎治教授らは AI による画像生成技術(GAN)による自動輪郭作成システムを開発したと発表した。
放射線治療では、数十日の照射期間の間に体形や腫瘍の縮小が起こるため、これに合わせて日々CT や MRI などの医用画像を撮影し、治療計画(照射する範囲や照射手法)を変更する適応放射線治療(ART)が行われている。日々の治療計画を変更する際には撮影した画像上で輪郭を作成する必要があるが、特に頭頚部では臓器が多く数時間以上の時間を要する。人による個体差もあるため、均てん化と自動化が必要とされているという。そこで研究グループでは、治療前のMRI画像を対象とし、AIによる画像生成技術(GAN)による新たな輪郭作成システムを構築した。
GANとは「敵対的生成ネットワーク(=Generative Adversarial Network)」と呼ばれるディープラーニングの手法。「アルゴリズムを生成するAI」と「それを監視するAI」がともに競い合い学習を重ねていくことで、教師データの作成を不要とし、さらに学習効果を高めていこうとするもの。Generator によって画像から輪郭を生成する学習が行われ、もう一方の Discriminator は Generator によって生成された輪郭(偽物の輪郭)と本物の輪郭を判別する学習を行う。これらを同時に進めることで、自動的に精度が改善するようにアルゴリズム構築が進んでいくという。
こうして輪郭生成するAIを構築したうえで、頭頸部の輪郭作成精度に関して評価を行ったところ、従来法(CNN)より全ての臓器で精度が高い結果となった。研究グループはこの成果について、放射線治療に活用できれば、腫瘍に合わせたより正確な治療実施で治療効果の向上とともに、副作用をはじめとした患者負担の軽減も期待できるとしている。また従来法では数時間以上必要であった輪郭作成を正確かつ自動で、数分以内にできるため省力化においても大きな効果が期待できるという。またMRI画像を対象とした今回の成果は、最新の放射線治療装置である MRI リニアックにおける自動化、省力化を目指せる可能性もあるとしている。