超音波ガイド下治療時に活用できる画像補完手法をAIで開発 電通大
電気通信大学の研究グループが、悪性腫瘍に対する侵襲性の低い治療法として普及している「超音波ガイド下治療」を支援する画像補完技術を開発したと発表した。骨などの硬組織の下に隠れ見えない部分の情報を、人工知能を活用して腎臓模型の相当する部分の画像で補完する実験を行い、臓器追跡の精度が向上することを確認したという。
畳み込みニューラルネットワークで合成画像を生成
研究成果を発表したのは、電気通信大学大学院情報理工学研究科の小泉憲裕准教授、西山悠准教授、修士課程1年の松山桃子氏らの研究グループ。横浜市立大学附属市民総合医療センターの沼田和司診療教授、東京大学医学部 附属病院の月原弘之特任助教、日本大学の松本直樹医局長、大林製作所(東京都)らと共同研究となる。
高密度焦点式超音波 (high intensity focused ultrasound: HIFU)、ラジオ波熱凝固療法 (radiofrequency ablation: RFA)などの超音波ガイド下治療※1は、超音波を用いて深部にある組織を破壊することによって治療する手法。低侵襲治療で皮膚切開の必要がなく、放射線被ばくのリスクもないとして広く利用される一方で、臓器が動いているために治療部位の特定が難しく、また音響ノイズによる不良箇所の処理が難しいといった課題も抱えている。
研究グループではこの課題を解決する手法として、患部が肋骨の下にある場合、骨などの硬い組織からの音の反射によって発生する音響陰影※2領域を補完する合成画像の生成手法開発に着手。畳み込みニューラルネットワーク※3に基づいて、ファントム腎臓※4上の音響陰影の有無を分類する手法を構築したうえで、時系列データベースから適切な画像を検索、音響陰影によって隠れていない、対応する領域をターゲット画像の欠落領域に重ね合わせて音響陰影のない合成画像を作成した。さらに、U-Net※5を用いた腎臓マスク※6の自動生成法の構築と検証を行なった。
検証した結果、腎臓を追跡する際の補完精度が上がったことで、臓器の画像追跡全体の精度向上を確認した。具体的にはデータ生成条件によるが、2つの画像データがどれだけ似ているかという評価指標である「ゼロ平均正規化相互相関(ZNCC)値」の値が補完前の値より高くなったという※7。研究チームでは、今回の検証で提案手法の有効性を確認できたとしており、今後は実際の臓器においても有効性を検証していく予定。
※1 超音波ガイド下治療:超音波診断画像でモニタリングしながら治療を行なうこと
※2 音響陰影:結石やろっ骨などの硬い組織に超音波が反射することで、その後方にできる陰影
※3 畳み込みニューラルネットワーク:人間の視覚神経を参考にしたアルゴリズムであり、医用画 像中の臓器やがんなどを視覚的に検出することができる
※4 ファントム腎臓:人間の代わりとして用いられる腎臓模型
※5 U-Net:Olaf らによって医用画像処理のために開発されたアルゴリズム。医用画像中の臓器や がんなどを区別してその領域ごとに検出することができる
※6 腎臓マスク:医用画像中の腎臓の範囲を指定すること。複数の画像を合成する際や、作業範囲 を正確に指定する場合に用いられる
※7
(1)ロボット超音波診断システムのベッドの位置を並進方向に変更する
(2)プローブ角度を並進方向に変更する
(3)条件(2)にプローブの回転運動を追加する
これらのデータ生成条件において、補完後のゼロ平均正規化相互相関(ZNCC)値は、補完前の値(4 未満)よりも高くなった。 特に(3)の条件では、腎臓の輪郭の形状に大きなばらつきがあったものの、提案手法によって ZNCC 値は 0.5437 から 0.5807 に改善された