アミロイドβに結合する磁気粒子をヒトの脳サイズで撮像可能な「磁気粒子イメージング装置」を開発 三菱電機と岡大、阪大
アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイド βに結合する磁気粒子を、ヒトの脳サイズで撮像できるイメージング装置の試作機が、日本の研究チームにより世界で初めて開発された。これまでの課題とされた電源の大きさなどをほぼ解決しており、疾患の発症につながらないよう、定期的にアミロイドβの蓄積状況を健康観察の一環として行える可能性が出てきた。
研究成果を発表したのは、三菱電機、岡山大学、大阪大学大学院工学研究科の研究グループ。日本における65歳以上の認知症患者数は、2025 年には700 万人に達する※1と見込まれ、また、認知症患者のうち 67.6%をアルツハイマー病が占めるという統計結果※2も報告されており、予防、または早期発見と治療開始は喫緊の課題となっている。アルツハイマー病発症の原因として、アミロイドβと呼ばれるタンパク質の異常蓄積が強く疑われており、脳内のアミロイドβの蓄積状況を測定する技術が求められている。
アミロイドβを検出する技術のひとつとして、この物質と結合する磁気粒子の測定技術が検討されている。これを実現する磁気粒子イメージング装置は、コイルが発する交流磁場により体内に注入した磁気粒子の磁気信号を誘起し、これを検出することで、3 次元画像を生成する装置で、交流磁場の周波数が高いほど磁気信号を高感度に検出できるため、既に製品化されているマウスなどの小動物用の小型装置では、25kHz 前後の高い周波数が使用されている。同等の周波数でヒトの脳サイズの領域を撮像可能なように装置を大型化した場合、コイルも大きくなって必要な電源容量が増大するため、電源装置が非常に大型になることが実用化を妨げる要因の一つとなっていた。
今回、三菱電機がその電磁気学技術を深化させ、交流磁場を発生するコイルと、信号検出コイルの配置を精密に調整し、磁気信号の検出の障害となる不要な信号(ノイズ)を最小化できる構造を確立したことで、1kHz 以下の低周波でもヒトの脳サイズの領域の磁気粒子を高感度に撮像でき、電源装置の大型化を抑えた「磁気粒子イメージング装置」を世界で初めて開発した。研究グループでは、この開発成果はアルツハイマー病発症前の画像検査の実現に向けた大きな前進となるとし、2030 年頃に実用化の目途を付けることを目標に、他社との協業も視野に入れて検討を進めていくとしている。
※1 出典:「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成 26 年度 厚生労働科学研究成果データベース)
※2 出典:「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(平成 24 年度 厚生労働科学研究成果データベース)