高齢者の健康寿命を延伸するための重要なファクターとして転倒防止が挙げられているが、日本の研究グループが、地域高齢者のデータベースから1年以内に転倒する確率を推定する計算式、アルゴリズムを開発しツール化したと発表した。
高齢者自身でも確認できるツールとして開発
今回の研究成果を発表したのは、兵庫県立大学地域ケア開発研究所の林 知里教授(所長)、大阪公立大学大学院医学研究科 整形外科の豊田 宏光准教授からなる研究グループ。
世界全体が高齢化に向かうなか、転倒は世界的な問題となっている。世界保健機関(WHO)の2008年の報告によると、65 歳以上の高齢者の 3 人に 1 人が毎年転倒しているという。高齢者の転倒予防については、低負荷のレジスタンス運動やバランス運動、転倒リスクの 評価などの取り組みが効果的であると報告されている。研究グループでは過去に、「いきいき百歳体操」と呼ばれる地域密着型の介護予防のための運動プログラムに長期間参加しており、こうした運動プログラムが下肢筋力の低下を改善し、加齢に伴う歩行速度や身体機能の低下を遅らせることを報告した。※1
今回、研究グループでは、上記運動プログラムに参加するなかで得た高齢者の参加者のデータ(日常生活動作や運動機能、閉じこもり、口腔機能、認知機能、うつなどに関するアンケート回答)からなるデータベースを用い、転倒リスクを評価する手法が確立可能か解析した。
具体的には、平均年齢74.2歳の参加者の転倒の発生率は18.9%で「開眼片足立ち時間(秒)が短い」、「椅子から手を使わずに立ち上がれない」、「昨年と比べて、健康状態があまりよくない」、「過去 1 年間に転倒したことがある」、「運動プログラムへの参加が5年未満である」、「今日が何月何日かわからないときがある」、「お茶や汁物等でむせることがある」という項目が転倒のリスクに繋がることが分かった。過去の転倒歴や開眼片足立ち時間が短いことは以前よりリスクとして報告されていたが、今回の解析で、認知機能や 口腔機能の低下も転倒リスクを高めていたことが確認された。運動プログラムの効果も短期間ではあまり効果はなく、継続的に参加することが重要であることも示された。
これらのデータを元に研究グループでは、1年以内に転倒する確率を推定する転倒確率評価ツール(Calculation tool for predicting the Risk of Falls within the next year ; CaRF)※2を開発した。このツールを用いた評価で、1年以内に転倒する確率が 22%以上になるとリスクが 高いと評価できることが統計学的に分かったという。なお、評価ツールの感度、特異度はそれぞれ68.4%、53.8%だった。研究グループは論文で、個人の1年間の転倒リスクを許容できる感度と特異度で予測することができたとし、高リスク集団の特定に用いるカットオフ値として22%を推奨するとしている。
※1 Hayashi C, Ogata S, Okano T, Toyoda H, Mashino S. Long-term participation in community group exercise improves lower extremity muscle strength and delays agerelated declines in walking speed and physical function in older adults. Eur Rev Aging Phys Act. 2021 May 28;18(1):6. doi: 10.1186/s11556-021-00260-2.
※2 特許出願中:特願 2023-125764