膵臓がんの早期発見に光、血中マイクロRNA解析と既存マーカーの組み合わせで識別能0.98達成 京都大学

 京都大学の研究グループが、現在困難とされる膵臓がんの早期発見の可能性を示す研究成果を発表した。次世代シーケンサーによる血中マイクロRNAの解析と、既存マーカーとの組み合わせで、ステージ0-1の膵臓がんでも既存手法より高い識別能を達成したとしている。

ステージ0/1でも高い識別能

 研究成果を発表したのは、京都大学医学研究科消化器内科学の河相宗矩医員、福田晃久准教授、妹尾浩教授らの研究グループ。日本における膵臓がんによる死亡者数はがん全体の4番目で増加傾向にあり、5 年生存率が 8.5%と最も予後不良ながん種の一つ。その約半数が発見時にすでに転移している可能性が強い「ステージ4」であり、実際に転移していた場合、5 年生存率が 5%未満とさらに低下する。一方で、診断時点で膵臓内 1cm 以下の腫瘍であった場合、10 年生存率が90%以上と報告されており、早期発見が予後改善には決定的に重要とされる。しかし初期の多くは症状に乏しく無症状で、また、特定するための有用なバイオマーカーが存在しないことから、早期発見が非常に困難であるのが現状だ。

 研究グループは、先行研究でこの課題解決の可能性が示唆されていたマイクロRNA(miRNA)に着目し、膵臓がんの早期ステージ、特に無症状のケースから検出できるかを検証した。具体的には、近畿大学、京都府立医科大学など 14 施設の多施設で、次世代シーケンサーを展開するアークレイとの共同研究により、膵がん患者 212人および非がん対照者 213 人の血液中マイクロ RNAを次世代シーケンサーを用いて網羅的に測定。膵がん患者を非がん対照者と識別する膵がん判別モデルを機械学習により構築し、その識別能を検証した。判別モデルの作成には AutoML ※1 技術を利用し、100 種のマイクロ RNA の発現量データを用いて、8つのアルゴリズムを組み合わせたアンサンブルモデルを構築した。

 

 マイクロRNAによる膵がん患者と非がん対照者の識別モデルの性能を既存の腫瘍マーカーである CA19-9 と比較したところ、CA19-9 の AUC ※2 が 0.88 である一方、マイクロ RNA モデルでは AUC 0.94、マイクロ RNA と CA19-9を組み合わせたモデルでは AUC 0.99 とより高精度に膵がん患者を非がん対照者と識別できることが示された(図1、図2)。さらに、ステージ0とステージ1の早期膵がんに限定すると、CA19-9 では AUC が 0.81 である一方、マイクロ RNA モデルでは AUC 0.92、マイクロ RNAと CA19-9 を組み合わせたモデルでは AUC 0.98 となり、早期膵臓がん患者でも高精度に非がん対照者と識別できることも示された(図3)。さらに無症状の早期膵がんにおいては、CA19-9 は感度 0.29 であるのに対し、マイクロ RNA モデルは感度 0.48、マイクロ RNA CA19-9 を組み合わせたモデルは感度 0.67 となり、膵がんの早期発見・診断に繋がる技術であること示唆されたという。

 開発した識別モデルは、イルミナ社製の次世代シーケンサーである NextSeq 550 を用いて測定したマイクロ RNA 発現データを用いて構築したが、サーモフィッシャー社製の次世代シーケンサーである Ion GeneStudio S5 を用いて測定した検証群でも同様に識別できることも確認できており、マイクロ RNA の測定法の違いにも強い、頑健性の高いモデルであることも確認できたとしている。

※1 AutoML (Automated Machine Learning)
機械学習のプロセスを自動化する技術。データの前処理や機械学習アルゴリズムのハイパーパラメータの最適化、予測精度の高いアルゴリズムの探索などを自動化でき、モデル構築の効率性から注目されている。

※2 AUC (Area Under the Curve)
ROC 曲線の下部分の面積を意味し、二値分類の性能を評価

論文リンク:Early detection of pancreatic cancer by comprehensive serum miRNA sequencing with automated machine learning(British Journal of Cancer)