北里大と慶應義塾大の研究グル ープは、加速度センサを内蔵したイヤホン型ウェアラブルデバイスで頭部運動を追跡するシステムを開発し、その計測結果を検討したところ、病院で行われる平衡機能検査との有意な相関を確認したと発表した。今まで医療機関でしか検査できなかった平衡機能を病院外や自宅で計測することで、 日々のふらつき症状の変化を定量的に評価できる可能性が示されたとしている。
正の相関性を確認、遠隔医療・診療やヘルスケア領域での社会実装を目指す
研究成果を発表したのは、北里大学医学部の藤岡 正人教授(分子遺伝学、耳鼻咽喉科・頭頸部外科)、慶應義塾大学医学部の山野邉 義晴(耳鼻咽喉科学、大学院医学研究科博士課程)らの研究グル ープ。平衡機能障害としてのめまいを訴える患者の数は年齢とともに増加し、65 歳以上で は人口1,000人あたり男性では 25.0 人、女性では 41.0 人と比較的多く※1、生涯有病率は 30%と極めて頻度が高いといわれている。東京消防庁救急相談センターへの受診相談者の4.1%(第6位)がめまいであり、本来、 医学的には急を要さないことも多いめまい症状に医療資源が多く割かれているのが現状だという。
めまいのほとんどは内耳疾患が原因で、その症状はしばしば変動し反復する。診療においては患者のめまい症状の推移を正確に把握することが重要だが、医療機関で計測できる各種検査(重心動揺検査など※2)は受診時における単発の検査のため、日常生活での症状は主観的な患者の訴えに頼らざるを得ず、医療者側が客観的に症状の程度や変動、その推移を評価することは困難だ。
そこで研究グループでは、病院外におけるめまい症状を経時的に追跡する客観的検査の確立を目的として、加速度センサなどを内蔵するイヤホン型ウェアラブルデバイスを 装着し頭部運動を追跡することで、医療機関における平衡機能検査を代替する方法を開発、検討した。具体的には、三脚を人体に見立て、頭部に相当する部分をウェアラブルデバイスで、足部の重心の運動を医療機関で使用される重心動揺計で同時測定し、双方で計測される測定量の関係性を比較した。解析の結果、ウェアラブルデバイスを用いて計測した頭部運動と重心動揺計で計測した足部の重心の運動について、正の相関性があることが分かった(図3)。
研究グループではメニエール病や更年期障害、起立性低血圧など、変動するふらつきやめまいを引き起こす病気は多岐にわたるが、その多くは日常生活で生じるものであり、今まで医療機関でしか検査できなかった平衡機能を病院外や自宅で計測することで、 日々のふらつき症状の変化を定量的に評価できる可能性が示されたとしている。またこの成果を活用することで、平衡機能障害※3を呈する疾患の診断や経過観察に役立つとともに、日常生活に隠れる“体調”の変動をユーザーが自ら理解することにも幅広く役立つことが期待されるとしている。
※1 平成 28 年厚生 労働省国民生活基礎調査
※2 重心動揺検査:めまいなどの平衡機能障害の状態を評価する方法のひとつとし て、直立姿勢時に現れる身体の揺れを重心の揺れとして計測する検査。
※3 平衡機能障害:姿勢を調節する機能の障害であり、四肢や体幹に異常がないに もかかわらず起立や歩行に何らかの異常を来す状態のこと。