千葉大学附属病院の研究グループが、統合失調症患者に対するオンラインでの認知行動療法の有効性を2年間にわたる臨床試験で実証した。オンラインでの有効性が示唆されたことにより、多くの患者が認知行動療法に取り組める可能性がある。
オンライン認知行動療法を開発、日本において臨床試験を2年間実施
研究成果を発表したのは、千葉大学附属病院 認知行動療法センターの清水栄司センター長、子どものこころの発達教育研究センターの勝嶋雅之特任研究員らの研究グループ。統合失調症は 100 人に 1 人が発症する疾患といわれ、一般のイメージよりも罹患する可能性が高い疾患だ。治療の第一選択肢は薬物療法だが、心理社会的支援をバランスよく組み合わせることで、より望ましい治療効果が得られるとされている。その主な手法のひとつが、うつ病や不安症等の精神疾患で効果が示されている認知行動療法となる。
認知行動療法は統合失調症に対しても、海外における大規模研究から陽性症状や抑うつの改善等に有効であることが検証されており、欧米では現在、統合失調症患者への認知行動療法が治療ガイドラインにも収載されている※1。一方で日本においては効果研究が存在しておらず、また統合失調症に対する認知行動療法を提供できる医療者が不足していることもあり、現状では認知行動療法の広範な普及を図ることが難しい状況だ。
研究グループはこの課題に対し、ウェブ会議システムを活用した「統合失調症に対するオンライン認知行動療法」を国内で初めて開発。2021年4月から2023年3 月までの2年間、臨床研究を行ってきた。
オンラインでの効果を実証
研究グループは、統合失調症で陽性症状のある患者24名(平均年齢33.5歳、男性10名、女性14名) を、通常診療のみを行う「対照群」と、通常診療に加 えてオンライン認知行動療法を実施する「介入群」にランダムに割り付け、検証を行ってきた。介入群は、タブレットPCを使用し自宅から接続、千葉大学医学部附属病院のセラピストと週1回1回50分、全7回のオンライン認知行動療法に取り組んだ。その中では患者自身の「感情(気分)」や「考え方(認知)」、「行動」を見直し、問題の解決や対処方法の改善を目指した。さらに「強いストレスを感じた過去の出来事の記憶」も扱い、中核信念※2への気づきや記憶のとらえ直しにも取り組んだ。
評価尺度については「陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)」※3を使用して測定。結果、介入群の平均点が治療前(52.3)から治療後(42.8)に軽減したことが観察された。(図1)。 8 週後の 2 群間の精神症状の変化をみると、通常の診療のみでは改善が見られなかったが、介入群において明らかな改善が示され、その差は統計的に有意となった。
今回の成果について、研究グループでは統合失調症に対するオンライン認知行動療法の有効性が示されたことは非常に重要であり、オンラインによるこの療法が患者に対する新たな選択肢と評価している。
注1 (参考文献):Psychosis and schizophrenia in adults: prevention and management,NICE Clinical Guidelines,978-1-4731-0428-0
注2 中核信念:長年の間にできた、自分自身や世界をとらえる姿勢の「核」となる考えで、その人のこころのあり方や行動の選択、決断に大きな影響を与える思いのこと。
注3 「陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)」:統合失調症の重症度を測る尺度で、陽性症状・陰性症状および総合精神病理について合計 30 項目を半構造化された面接を行って評価する。210 点満点で点数が高いほど精神症状が悪いとする。