複数データを統合解析し肺高血圧症診断支援 AI モデル開発、医師の診断精度向上 東京大学

 確定診断に時間を要するとされる肺高血圧症の診療に貢献しうるAI(人工知能)を、東京大学の研究チームが開発した。心電図(ECG)、胸部 X 線(CXR)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の 3 つの検査データを統合して解析する「マルチモダリティAI」だとしている。

複数データそれぞれに解析アルゴリズム確立、その後統合

 研究成果を発表したのは、東京大学医学部附属病院循環器内科の岸川理紗特任臨床医、小寺聡特任講師(病院)、武田憲彦教授らの研究チーム。肺高血圧症(PH)の診断には、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)測定や心電図(ECG)などの検査をまず行い、胸部X線(CXR)や心エコーなどのさらなる検査が必要かどうかを判断するプロセスが定められている。しかし、初期症状が非特異的であることから診断までに長期間を要し、診断遅延が患者の予後に大きな影響を与える疾患といわれる。

 研究チームはこの課題を克服するため、これらのデータをすべて解析して診断支援に資するAIの開発に取り組んだ。具体的には、まず ECG、CXR、BNP の各データから特徴を抽出する個別モデルを構築。ECGのモデルには、123,260 件の心電図データを基に構築された畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使用し、CXRのモデルでは ResNet18※1を採用して胸部 X 線データを解析した。またBNPの解析に関しては、血液検査値を基にロジスティック回帰を用いて PH のリスクを予測するモデルを構築。最後に、これらの個別モデルの出力値を統合し、3 層の全結合ニューラルネットワークによるエンサンブル学習モデルを開発したという。

 性能評価した結果、モデルの性能評価ではAUC が 0.872 、医師がこのエンサンブル学習モデルを使用した場合の診断精度が 65.0%から74.0%へ向上し、統計的に有意な改善が確認された。

 研究チームはこの成果について、まず使用されたデータが日本国内8施設(東京大学医学部附属病院、旭総合病院、榊原心臓研究所、自治医科大学附属さいたま医療センター、東京ベイ・浦安市川医療センター、三井記念病院、JR東京総合病院、NTT医療センター東京)から収集された約 12 万件以上の症例を含む大規模データを活用しており精度の点から信頼性が高く、また実際に医師が使用した場合の診断精度が向上したことから、特にプライマリケア医が早期に専門医へ紹介する判断を支援する効果が期待できるとしている。さらに、今後のAI開発の側面からも、他の疾患の診断支援にも応用可能なマルチモダリティ AI モデルの開発への道を拓くものと示唆している。

※1 ResNet18
深層学習における畳み込みニューラルネットワークの一種で、ResNet(Residual Network)シリーズのモデルの一つ。18 は、このモデルが 18 層のネットワーク構造を持つ ことを示す。深い層のネットワークにおける学習の難しさを克服するため に、残差学習(residual learning)という手法を採用しており、出力層が入力層の情報を直接引き継ぐショートカット接続(スキップ接続)を導入し、勾配消失問題を軽減する。ResNet18 は計算効率が高く、医療データ解析や画像認識タスクに広く利用されている。

論文リンク:An ensemble learning model for detection of pulmonary hypertension usingelectrocardiogram, chest X-ray, and brain natriuretic peptide(European Heart Journal – Digital Health)