広島大学の研究グループが、心尖拍動図(apex cardiogram;ACG)と相関関係が認められる音響波を、新開発した音響計測センサーで計測することに成功したと発表した。このセンサーを椅子の数カ所に埋め込めば、長時間にわたる心臓および血管系の状態推定が可能になるとしている。
0.5-80Hzまでの音響波を計測できるセンサー開発
研究成果を発表したのは、広島大学大学院医系科学研究科の吉栖正生教授らを中心とする研究チーム。センサーはデルタツーリング(広島市)と共同で研究開発した。開発したセンサーは、コンデンサ型マイクロフォンを埋め込んだゲル部分と、脈波を共鳴させ増幅するニット生地状の「3Dネット」から構成され、0.5〜80Hzの広い範囲の帯域を計測できる。ACGと心音の境界が16 Hz付近にあることが先行研究で示唆されていたため、境界付近の周波数を捉えるために開発したものだという。研究チームではこのセンサーを「確率共鳴を用いた音響センシングシステム(4SR)」と命名している。
研究チームでは予備実験で性能を確認したあと、健康な人50人の協力を得て検証実験を行い、開発したセンサーで心臓の健康状態の指標となるデータが得られるか検証した。具体的には、前胸部から得られた波動から、非常に低い周波数帯域の心尖拍動図相当波形(Cardiac Apex Beat:CAB)と、それよりも周波数の高い心音図相当波形(Cardiac Acoustic Sound:CAS)の2つを取得し、この2つと同じ50人から別途取得する心電図から類推できる心拍数との関連性を調べた。解析の結果、前胸部で得られた センサー由来のCABの一部は,心尖拍動図ACG で得られる心尖拍動の波形に極めて類似していることが分かった。
また、前胸部だけではなく、胸部・腹部の背面、腰部などからもCAB および CASが取得できることも確認した。センサーを胸腹部の背面や腰部に埋め込んだ イスを作成した結果、座っただけでその部位の CABおよびCASが得られることも確認している。この研究成果は、2021年 7月1日付で「Scientific Reports」に掲載された。