2018年12月3日、福井大学の研究チームは、ADHDの児童と定型発達児の脳のMRI画像をAIで解析した結果、脳構造の特徴を高精度に識別できたと発表した。また発症に関連があるとされる遺伝子との有意な関係も発見したという。
約80%の精度で脳構造の特徴を識別
福井大学 子どものこころの発達研究センターの友田明美教授とジョン・ミンヨン特命教授らは、米国の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)※1に基づいて診断された7-15歳のADHDの児童39人と、年齢、IQがマッチした定型発達児34人(いずれも男児)を対象にMRIで脳を撮像し、全148の脳領域ごとに脳皮質の厚みと面積のデータを取った上で、サポート・ベクター・マシンという機械学習の手法で解析した。
その結果、148領域のうち、眼窩前頭皮質外側など16領域の皮質の厚み、11領域の皮質の面積にADHDの特徴が現れることを発見した。境界値が明確にあるわけではないものの、この成果により16領域、11領域の値の全体像から74〜79%の精度で識別できることを確認したという。
さらに、この成果とADHD発症に関連があることが分かっているCOMT遺伝子※2の多型について検討したところ、眼窩前頭皮質外側など2領域で多型のうち、あるタイプではこの領域の皮質の厚み、面積と、ADHDの症状の1つである「作業記憶の苦手さ」とに有意な関係があることも判明した。
国際的な診断指標として活用可能か
これらの成果が国際的にも応用できる可能性を検討するため、国際大規模データベースからADHD児83人と、年齢、IQがマッチした定型発達児115人の脳画像データを参照し同じ解析を実施したところ、73%の精度で両者が識別できた。将来、国際的な診断指標として応用できる可能性もあるという。
今後の展開について、研究グループでは「今回の研究では女児より有病率が高い男児を対象としたが、今後は女児、幼児から成人までの幅広い年齢層、知的障害を有する方など対象を拡大していく」としている。この研究成果は、2018年12月3日に英国科学雑誌「Cerebral Cortex」に掲載された。
※1 DSM-5
精神疾患の診断の国際標準の1つとして世界的に普及しているマニュアル。米国精神医学会が精神疾患の分類のための共通用語と標準的な基準を提示するため編集・出版している。第5版は2013年に発表された最新版。※2 COMT(catechol-O-methyltransferase)遺伝子
COMTはドパミン、ノルエピネフリンなど「カテコラミン」と呼ばれる脳内の神経伝達物質を分解する酵素の1つで、友田教授らはこれまでにこの遺伝子の多型が、右小脳の一部と左背外側前頭前野の機能的結合の弱さと関連しており、ADHD症状の1つである実行機能の低下に影響している可能性を明らかにした。