【Health2.0レポート】利用者も看護師もハッピーに オランダ発 「ビュートゾルフ」の戦略

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Stephan Dyckerhoff氏(ビュートゾルフ・アジアCEO)
Stephan Dyckerhoff氏(ビュートゾルフ・アジアCEO)

オランダで4人の看護師によって立ち上げられた訪問看護サービスのビュートゾルフ。利用者と看護師双方の支持を受け、急成長している注目の事業者だ。12月7日に行われた『Health.2.0-ASIA JAPAN』2日目のセッションでは、ビュートゾルフ・アジアCEOのStephan Dyckerhoff氏が登壇し、ビュートゾルフの戦略について明かした。

 

10年で1万人の巨大組織に成長した訪問看護サービス

当時のオランダでは、定められたサービスや予算、実施時間に沿ってケアを行うこととなっていて報酬もそれに準じた出来高払いとなっていた。そのためサービス事業者も、できるだけ多くのサービスを売り込むことが企業の収益に繋がるという考えが主流であり、同じ利用者のところに何人もの看護師や介護士が訪れる状況が当たり前だった。その結果、一人の患者に対し過剰なケアが施される事態が起こり、看護師の負担が大きくなって深刻な看護師不足を招いたという。
また、サービス内容が標準化・固定化され、そこにあてはまらない利用者の要望には応じにくいという根本的な問題も生じていた。このような現状を間近で見ていた看護師のJos de Blokは、在宅ケアに新しい考え方を取り入れるべく、2006年、訪問看護サービスのビュートゾルフを立ち上げたのである。その要となる考え方は「お役所仕事ではなく、人間らしい仕事をしよう」というシンプルなものだった。

現在、ビュートゾルフには1万人の看護師が所属し、850を超えるチームがオランダ内に存在する。収益は3億2千万ユーロを超え、ヘルスケアの分野においてヨーロッパで最も急成長を遂げた会社と言われている。

 

成功を導いた要因は「利用者中心」「看護師中心」のモデル

クライアント宅で作業するビュートゾルフの看護師
クライアント宅で作業するビュートゾルフの看護師

ビュートゾルフのモデルが成功を遂げた背景には、いくつかの理由があるとStephan氏は語る。

第一に、看護師が中心となりケアを行うこと。看護師たちは最大12人でチームを組み、地域の患者のケアにあたる。看護師自らが必要なことを判断し、計画や調整を行っているという。そして看護師の生活拠点が担当地域として割り当てられるため、移動時間も最小限で済む。看護師たちは自身の生活に根ざした地域社会において、より質の高いケアを行わなくてはいけないという責任感も負っているのだ。

さらに「お役所仕事ではない」という理念通り、ケアの内容が利用者中心になっている。食事の時に話を聞いたり、牛舎の様子を一緒に見に行ったりと、従来のようにマニュアルに書かれているサービスだけを提供するのではない。

ビュートゾルフの掲げる「たまねぎモデル」のイメージ図
ビュートゾルフの掲げる「たまねぎモデル」のイメージ図

ビュートゾルフは「たまねぎモデル」と呼ばれる利用者の自律支援型のビジョンを掲げている。寝たきりの利用者であっても、様々な処置を与えることにより、自分の力で生活ができるようになる。利用者を支えるために、看護師たちはコミュニティ内にあるリソースも積極的に活用しているそうだ。例えば、最も身近な家族や、地域の人々、病院、ボランティアワーカー。アジアにおいてはケアワーカーの存在も大きい。ビュートゾルフで働く看護師たちは、このようなネットワークの調整を行い、利用者のエンパワメントを行っている。
インフォーマルなケアを行っていくことにより、利用者の健康状態も改善され看護時間が少なくなってくる。これは、看護師不足を解消することにも繋がる。

 

ITを看護の中に利活用し、いかに無駄なことを省くか

講演するビュートゾルフ・アジアCEO

ビュートゾルフは看護師がいかにケアに集中できる環境を作るかを重視している。その代表的な特徴として、組織の中には階層関係が存在しない。一人ひとりの看護師が独立し、それぞれ自分のナースステーションを持っているような感覚で働くことができる。チーム編成や勤務時間の調整に関しても、本社の人事部ではなく看護師が行う。家庭を持つ看護師たちにとって、この働き方は大きな魅力である。

そして、iPadは看護師たちの仕事の友である。ビュートゾルフでは看護師全員にiPadを配布している。その目的は「ビュートゾルフ・ウェブ」と呼ばれる情報共有システムへアクセスさせるためだ。看護師たちはiPadを通じて1万人の仲間たちと繋がり、情報交換を行うことができる。また、医療情報の管理や評価、スケジューリングなどもこのシステムで効率良く行える。事務的な作業にコストを費やすことがないため、間接費も最小限に抑えられているという。

また、このビュートゾルフ・ウェブには、全人的見地からみた地域看護活動の標準分類方式である「オマハシステム」も導入されている。これは、どのようなケアをどれだけ行なったかではなく、アウトカムに基づいてケアの質を評価するというもので、1970年代にアメリカ・オマハの訪問看護協会が開発した手法だ。このシステムでは「問題文類」「介入方法」「評価」それぞれに細かいコードが設定されていて、この方式で記録することで、どのような問題にどのような手法でアクセスし、アウトカムはどうだったかを俯瞰したかたちで細かく知ることができる。

 

ビュートゾルフ・モデルに世界も注目

利用者と看護師が笑い合うビュートゾルフ・モデルの象徴

現在、多くの看護師がビュートゾルフに転職し、満足度の高い仕事の仕方を手に入れている。同時に利用者たちの満足度も高く、10年間でクレームは1件も届いていないそうだ。さらに、オランダにおける最優秀雇用賞を4年間連続受賞したという。
この新しい訪問看護のモデルはヨーロッパはもちろん世界でも注目され、アジア諸国や日本でも導入が始まりつつある。果たしてオランダに続く成功事例となることができるのだろうか。

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