ヒトiPS細胞の超高密度培養に成功、培養コストを従来の1/8に圧縮 東京大など

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 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の普及の鍵とされている、製造コストの課題を解決する可能性を秘めた研究成果が日本の研究機関から発表された。東京大学工学院研究科とカネカ、日産科学の共同研究で、透析膜を利用した培養システムを活用することで、安価な多糖類を添加するだけで細胞密度を8倍にできることが確かめられたという。

透析培養で初の8倍の密度達成、世界最高

 研究成果を発表したのは東京大学大学院工学系研究科の酒井康行教授らとカネカ、日産化学の共同研究チーム。iPS細胞は再生医療や創薬への応用が期待されているが、大量培養には高コスト材料を大量に必要とすることから、普及への道筋がまだ見えていない。この課題を克服するための手法いくつか検討されているが、バイオエンジニアリングの視点からは「透析操作」による高密度培養というアプローチが試されてきた。透析膜を用いた透析操作で、コストの高い増殖因子を細胞近傍にとどめ続けながら、増殖に必要な低分子の栄養素を供給、同時に老廃物を除去するものだが、これまでiPS細胞への適用例は極めて少なかった。

 研究チームはこの透析操作による研究をさらに進めるべく、新たに開発した、内部に透析膜を持つマルチウェルプレートを用いる培養システムの有効性を検証した。(図1)。このシステムは透析膜で区切られた上下2つの空間(コンパートメント)からなり、上部では高価な増殖因子を添加した培養液で細胞を高密度で培養し、下部には安価な培養液のみを入れることで、高分子の増殖因子は透析膜を突破できずとどまり、低分子の栄養素や老廃物は透析膜を容易に通過できるというもの。このシステムを用いたうえで、さらに、多糖類のゲランガムという物質を添加することで、抗体医薬の産生に用いられているCHO細胞の高密度培養に匹敵する3.2×107 cells/mL=従来の約8倍という超高密度への到達が可能であることが確かめられたという。研究チームでは、培養液の供給速度と培養液中の増殖因子の濃度を変えずに細胞密度を8倍に高めることができたので、細胞当たりの培養コストは単純に1/8に抑制できたことになるとしている。

 ただ、iPS細胞の製造コストにおいて真に課題なのは、この次の段階の臓器細胞への分化誘導にかかるコストの削減だ。研究チームでは今回成果を確認できたこの培養システムが、この段階でも有効かを検討しており、すでに肝臓や膵島分化の第一段階(内胚葉分化)においては、同様の有効性があったとの結果を得ているという(未発表)。なお今回の研究成果は、2021年11月19日付で英国科学誌「Communication Biology」のオンライン版に掲載された。

論文リンク:A miniature dialysis-culture device allows high-density human-induced pluripotent stem cells expansion from growth factor accumulation(Communication Biology)

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Posted by medit-tech-admin