壮年期の乳がんマンモグラフィ検診における偽陽性の問題を、超音波検診を補助的に活用することで大幅に改善できる可能性が明らかになった。日本の研究グループが実施している被験者7万人以上を対象にした大規模ランダム比較試験(RCT)による成果で、世界をみてもこのような研究成果は例がなく、今後世界的に乳がん検診のプロトコールへ大きな影響を与える可能性がある。
マンモフグラフィと超音波を組み合わせた場合、感度93%に大幅改善
研究成果を発表したのは、東北大学の大内憲明客員教授、東北医科薬科大学の鈴木昭彦教授らの研究グループ。研究グループでは40歳代女性を対象に乳がん検診における超音波検査の有効性を検証する比較試験を実施しており、2016年には初回検診における感度、特異度、がん発見率を明らかにしている(Lancet論文)。今回は「乳腺濃度※1別の感度、特異度解析による超音波検査の評価」を目的に、40代の健常女性76,196人の協力を得て、引き続きランダム比較試験を実施した。現在普及しているマンモグラフィ検診には、乳腺濃度の高い(高濃度乳房)、若い女性における精度低下(偽陰性)が問題となっており、世界的に改善が望まれているためだ。
※1 乳腺濃度:
乳房は乳腺組織、脂肪組織、皮膚、乳頭・乳輪、血管などにより構成され、マンモグラフィでは X 線が通過しにくい乳腺組織は白く、通過しやすい脂肪組織は黒く写る。乳房に占める乳腺組織の割合のことをマンモグラフィでは「乳腺濃度」と言う。
試験はマンモグラフィ受診群を対照とし、マンモグラフィ検診に超音波検査を加えた群を介入群として、無作為に割り振られた方法で初回とその 2 年後に同じ検診を受診してもらう形で行われた。解析の結果、高濃度における感度について、対照群が69%であったのに対し介入群は93%、非高濃度においても対照群61%に対し93%となり、高濃度乳房のみならず非高濃度乳房においても、介入群での感度が有意に高く、超音波検査による上乗せ効果が確認された。研究グループは、この結果は超音波検査がマンモグラフィの弱点を補う有力な検査法であること、特に40歳代罹患率の高い日本を含むアジア地域では重要な成果であるとしている。今回の研究成果を示す論文は、米国医師会発行のオープンアクセス誌「JAMA Network Open」に2021年8月18日付で掲載されている。