経済産業省は2018年6月11日、日本のスタートアップの海外進出を支援するプログラム「J-Startup」を発表した。JETRO(日本貿易振興機構)、NEDO(新エネルギー・産業技術綜合開発機構)らと共同運営するスタートアップ支援プログラムの総称で、今後経産省傘下の同様のプログラムをこのブランドの下に統一し体制強化を図る。
「世界で戦い、勝てるスタートアップ企業を生み出す」
現在政府では企業価値又は時価総額が10億ドル以上となる未上場ベンチャー企業、いわゆるユニコーン企業、または上場ベンチャー企業を2023年までに20社創出するという目標立てを検討している。J-Startup はこの目標を達成するため、日本のスタートアップの中から有識者(投資家ら66名により構成)による評価・採点により、ロールモデルとなるスタートアップ約100社を採択。「J-Startup 企業」として認定し、支援していく(今回の発表時は92社の採択)。
採択企業は「J-Startup」ロゴの使用許可をはじめ、認定VCを通じたファイナンス支援、「規制のサンドボックス」の利用支援、知財戦略の構築支援、海外展開支援(メンタリング、イベント出展サポートなど)の各種サポートが受けられる。また政府の支援以外にも、今回同時に発表された支援VC、企業「J-Startup Supporters」による協業機会の提供、メンタリング、オフィススペース、実証実験場の提供、アクセラレーションプログラムなどへの参加優遇なども受けられるという。
さらに海外展開に対する支援として、SLUSH、SXSW、CES、TECH IN ASIA、 GITEX FUTURE STARS、Web Summitといった世界的な展示会に「J-Startup」ブースを確保し、その出展を支援。またJETROによる専門の支援窓口「JETRO グローバル アクセラレーション・ハブ」 が、 現地情報の提供やメンタリング、現地 でのコミュニティづくりを支援する。
選ばれた医療関係企業は26社
今回採択された企業は92社(発表によればあと8社追加されるものと思われる)。セクターではやはり宇宙関連、AI、ロボットを手がけるスタートアップが多数を占めた。クロスオーバーする部分もあるが、そのうち医療分野に関わる企業は26社。Med IT Techではこの26社を総覧する。
(分野別にかな順)
医療向けIoT、治療技術開発
キュア・アップ
スマートフォン、専用のIoTデバイスを活用したICTによる「治療アプリ」開発を手がける。研究者との共同研究で、アプリによるニコチン依存症治療、非アルコール性脂肪肝炎NASH治療に取り組んでおり臨床試験を実施中。これまで臨床研究の遂行と上市に向け、トータル19億円弱の資金をVCなどから調達している。ピクシーダストテクノロジーズ
筑波大学の落合陽一学長補佐が代表を務めるテクノロジー企業。ハードウェアではない空間制御技術の開発が特色だが、AMED-CREST研究「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」(研究分担者 星貴之CTO)では細胞、組織・器官、個体の構造と機能の調節に果たす物理的刺激の役割を明らかにする研究も行っている。ヘルスケア
エーアイシルク
染色の技術を用い、導電性物質をさまざまな繊維に染み込ませる独自の技術を持つ。また衣料の一部、任意の部分にのみ導電性高分子を印刷する技術もある。自由度の高い「バイタルセンシング衣料」の開発を下支えするものとして大きな注目を浴びている。O: (オー)
欧米では一般的な、体内時計と実時間とのずれを認知行動療法のアプローチで改善していくプログラム「CBT-i」を取り入れた睡眠改善のコーチングプログラムを、「体内時計を可視化する」専用のウェラブルデバイスと組み合わせ提供することを目指し起業。2017年11月には1.1億円の資金調達を果たした。2018年3月、スマートフォンとブラウザによる企業の従業員を対象とした睡眠分析、コーチングサービス「O:SLEEP」をローンチ。トリプル・ダブリュー・ジャパン
排泄予測IoTデバイス「D-FREE」を核とした施設向け、個人向けの予測管理サービスが主力事業。2016年のクラウドファンディングから始まったD-FREEの開発は話題を呼び、「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2017」グランプリなど多数のビジネスコンテストで受賞した。現在は個人向けデバイス販売に向け、先行予約を受付中。医療情報技術・AI・VR
アラヤ ARAYA
機械学習のアルゴリズムを可視化できる解析技術と、画像解析においてリアルタイムの顔認証、感情推定、姿勢認識、物体の認識といった識別技術に特徴を持つ。
EY Innovative Startup 2018、Microsoft Innovation Award 2018で相次いで受賞した。AWAKENS
ゲノムインフォマティクス市場が確立している米国で、日本人エンジニア等が立ち上げたスタートアップ。誰もが自分自身のゲノムデータを管理できるプラットフォーム、一般向けの「GENOMIC EXPLORER」と、企業向けにゲノム統合型サービスを開発できる API「GENOME LINK」を開発している。昨年のシードラウンドでは、500 Startups Japan、エムスリー、日本医療機器開発機構など日本の投資家から資金調達を行った。エクサウィザーズ
介護分野に軸足を置いたAI関連の実践的な事業が強み。認知症患者に対するケア技法の代表的なものとされる「ユマニチュード®」の日本独占事業化権を持っており、それに基づいたケア技法のコーチング、トレーニング事業を展開している。昨年行われた福岡市での実証実験にも関わっている。エルピクセル
ライフサイエンス分野に強みを持つ画像解析技術を擁し、特に医療分野では海外事例も含め医用画像解析の実績を豊富に持つ。その蓄積を活かした「EIRL」では、10種類の医用画像の解析が可能だとする。Preferred Networks
深層学習による画像解析技術を活用した、自動運転、医用画像解析など様々な分野への応用に実績がある。生産部門では日立製作所と、医療分野では国立がん研究センター等と共同研究を行っている。Holoeyes
現在の医療用画像の3D化の礎を築いたオープンソフトウェア「Osirix」開発者のひとりである杉本真樹氏(国際医療福祉大学大学院准教授)がCOOを務めるベンチャー。CT撮像から作成したポリゴンファイル(STL/OBJ形式)を、専用サイトで即座にVR/MR向けのビューワーアプリに変換・作成するサービスを行っている。リーズンホワイ
医療分野の各ステークホルダーに向けた情報サービスを展開している。専門医同士のSNS、病診、診診連携などをサポートする医療資源情報の分析ツールや、患者向けにはエリア内での病院選びをサポートするシステムを提供。最近では患者がネットでセカンドオピニオンを複数回取得することも可能なマッチングサービス「Findme」を開始し話題になった。mediVR
医師であり、かつシリアルアントレプレナーでもある原正彦氏(島根大学客員准教授、日本臨床研究学会代表理事)が設立した企業のひとつで、VRによるリハリビテーション支援プログラムを開発提供している。「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2018」グランプリ(最優秀賞)受賞。
医療機器関連
P・マインド
磁力による治療機器の開発に取り組む医療機器メーカー。特に線維筋痛症や神経障害性疼痛に対し、非侵襲で治療を行える機器開発に注力。AMED、内閣府の事業に採択されている。レキオ・パワー・テクノロジー
ジェネリック医薬品ならぬ「ジェネリック医療機器」開発販売に取り組む沖縄発のベンチャー。主に低価格が求められる途上国での医療機器ニーズに応えることを使命とし、現在はPCに接続して操作できる超音波検査機器(プローブ)を販売している。
バイオ・創薬・再生医療
エディジーン
タンパク質構造解析の第一人者である東京大学理学部濡木理教授の研究成果を元に、CRISPR-Cas9をさらに改良したゲノム編集技術の研究開発や、次世代型創薬システムの構築に取り組んでいる。希少疾患等に対する医薬品の開発を行う創薬ベンチャー。2017年12月にはその技術を評価され、4.7億円の第三者割当を受け入れている。クオンタムバイオシステムズ
量子力学を駆使した革新的DNAシークエンサーを開発するグローバルベンチャー企業。シリコンバレーと日本に研究開発拠点を擁し、海外製で占められている次世代シークエンサー市場への食い込みを狙っている。これまでシリーズBまでで29億円弱の資金を日系企業などから獲得している。ナノエッグ
皮膚のDDS(ドラッグデリバリーシステム)技術の開発企業。薬物包摂濃度が99%以上、且つカプセル表面の皮膚親和性を高め、皮膚角質内に薬剤をすばやく浸透させる、直径わずか数~10数ナノメートルの球状カプセル技術である世界初の「無機質薄膜コート」を開発した。ペプチドリーム
創薬候補化合物のペプチドを、短時間に数兆種類も作成できる創薬開発プラットフォームシステムを持ち、これまで多くの製薬会社から創薬研究の契約を勝ち取っている。製薬会社と合弁で特殊ペプチドの原薬製造会社も設立したほか、近年は医薬品の独自開発に向けそーせいグループの英ヘプタレスと提携した。メガカリオン
輸血に必要な血小板の安定供給を実現する、iPS細胞由来の血小板製剤の実用化を目指す産学連携ベンチャー。2017年8月には製法を確立、2020年の実用化に向け米国および日本での臨床試験の準備を進めている。リプロセル
iPS細胞などを活用した、中枢神経領域の疾患治療法の開発に取組んでいる。中枢神経領域の疾患(ALS、横断性脊髄炎など)を対象としたiPS細胞由来の神経グリア細胞開発に関する外国企業との共同研究や、健常者ドナー由来の体性幹細胞(MSC)を用いた、脊髄小脳変性症を対象疾患とする治験(臨床試験)を国内で2018年中に開始することを目指している。レグセル
京都大学再生医科学研究所河本宏教授が経営に参画する京都大学発のベンチャー。制御性T細胞の医用活用、具体的にはiPS細胞技術を用いて再生したT細胞によるがんの免疫細胞療法の確立を目指している。
ロボット
GROOVE X
ソフトバンクロボティクスの「Pepper」開発に関わっていた林要氏が設立したベンチャー。2019年に家庭用ロボット「LOVOT(ラボット)」を発売すべく現在製品開発を行なっている。CYBERDYNE
筑波大学の山海教授率いる医療用ロボティクス研究・開発のトップランナー。2017年に保険収載された「HAL®」を始め、現在は主にリハビリテーション用のロボットが主力。さらにHAL®の開発を通じて獲得した生体電位信号の解析・増幅技術を規格化し「サイバニクス技術」として、対応機器との連携ができるインターフェイス機器「Cyne™」を発表している。メルティンMMI
生体信号の処理技術と、それに基づいたサイボーグ開発を目指すテクノロジー企業。先日、コンセプトモデルである筋電義手「MELTANT-α」を発表し、力強く繊細な動きが、人の手と同等のサイズ・重量で可能になったとその技術力を誇示した。日本医療機器開発機構(JOMDD)CEOの内田毅彦氏が取締役に名を連ねている。リバーフィールド
空気圧によって柔軟で滑らかな動作を実現した、世界初の空気圧駆動の内視鏡ホルダロボット「EMARO」の開発元。先行する手術ロボット「ダ・ヴィンチ」に続く有力な日本製の手術ロボットとして注目されている。