2019年5月27日、東芝は、ジョンズホプキンス大学と共同で、世界で初めて脳内で空間認知をつかさどる海馬の機能の一部を小型な脳型AIハードウェアで模倣・再現させることに成功したと発表した。高い空間認知能力が求められる自律移動型ロボット等の小型化に向けた活用が期待できるとしている。
ネズミの海馬の空間認知機能に関するニューラルネットワークの一部を再現
近年、人間の脳が持つ機能を小型なデバイスで再現するAI技術の開発が世界中で進められている。自動運転や産業用・災害対策用ロボットなどの分野、医学でも主に脳神経科学分野での応用が期待されているが、脳内の情報伝達は神経細胞の電気的信号というアナログ処理でやりとりされており、空間認知等の脳機能を忠実に模倣するためには、これを再現する脳型AIハードウェアの実現が必須とされてきた。同社は、脳神経科学、生理学や工学分野が融合するジョンズホプキンス大学との共同研究を行い、同大学が保有する神経細胞回路設計技術や神経細胞の制御技術を用い、当社の回路実装技術を組み合わせることで、脳型AIハードウェアの構築を実現したという。
同社とジョンズホプキンス大学は、共同研究においてネズミの海馬に着目した。脳神経科学分野において最もよく研究されている分野の一つに、海馬において空間認知をつかさどる神経細胞である場所細胞と格子細胞※1に関する研究があるが、ネズミの場所細胞と格子細胞は、ネズミが特定場所にいるときのみ反応(発火)するとされている。論文で公表されているニューラルネットワークモデルや数理モデルを元に、場所細胞と格子細胞の模倣動作に必要なハードウェアの構成や制御技術、さらには神経細胞の発火信号にポアソン分布※2をもったノイズを引火する技術を開発し、神経細胞ハードウェアと専用の制御回路と組み合わせ脳型AIハードウェアとして実装することに成功した。
この脳型AIハードウェアによる実証実験により、場所細胞の発火による発信現象を再現でき、脳神経科学で示された結果とほぼ等しい結果を得ることができたという。なおこの成果について、札幌市で開催されるIEEE国際学会(回路とシステム)にて5月29日に発表する。
注1:2014ノーベル生理学・医学賞 John O’Keefe 海馬における場所細胞および格子細胞の発見
注2:離散型確率変数が従う確率分布の代表例のひとつ。一定時間または空間の間に偶発的に生じるような事象の多くが、ポアソン分布に従うことが知られている。