ICTの全方面活用で加速する「神奈川モデル」 新型コロナ対策で際立つ

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感染症医療そのものを前に進めた、ICTツール同士のコラボレーション

クルーズ船対応が終了した3月上旬から、神奈川県内でも感染者が断続的に発生し感染拡大が懸念され始めた。治療のはじまりである、保健所や地域のかかりつけ医による感染疑い者への適切な診療、検査への誘導について、人的リソースに起因する体制の逼迫が予想されたことから、県はバックアップの仕組みづくりを急いだ。

当時から保健所の人的リソースの問題は指摘されていた。保健師は時間をかけ感染疑い者やかかりつけ医師から状況を聞き取り、必要ならば検査手続きを進め、検体を受け取り臨床検査技士に回し、結果を取りまとめる。陽性ならば国に発生届を出し、同時に収容先を医療機関と調整する。これらすべての業務が電話と紙ベースで行われており、しかも保健所の電話回線は多くなくすぐにパンクし、相談の電話を受け止めきれない事例が積み上がりつつあった。直ちに人員を増やすことも厳しいなか、まずは保健所の負担を軽減しバックアップするツールを導入することが求められた。

無症候・軽症患者は、LINE +チャットボット+Team 、そしてAiCallで手厚い見守り

「神奈川モデル」は症状別に収容先を分け、それに適した医療資源を集中的に分別配置することで、医療体制の維持と治療最適化を図るモデルだ。つまりゲートキーパーとなるかかりつけ医、保健所を起点に、いかにスムーズに患者をトリアージするかが鍵になる。

同じ頃、クルーズ船乗客へのLINEを活用した遠隔相談の経験をきっかけに、県独自に、LINEを活用して県民への個別フォローを試みる取り組みが始まっていた(既報)。この「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」アカウントによる取り組みは、クラスター発生の予測とそれに基づいた事前の対策づくりの参考になるデータ収集が主目的だったが、継続的に健康状態をチャットで聞き出すことによって感染疑い者を抽出し、保健所、医療機関へ繋ぐ機能も持っていた。つまりすでに治療の入り口、窓口としてLINEが機能し始めていたともいえた。

そこで対策本部では、このLINEというチャンネルを活かし、まずは無症候の感染者・軽症患者をモニタリングすることを着想する。具体的にはこうした方向けの「神奈川県療養サポート」アカウントを開設、先行した「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」アカウントと同様に、チャットにより健康状態を聞き取り把握できるようにした。この聞き取りには、BotExpress社が開発したChatBot(GovtechExpress)を活用し自動で行うことで、省力化も実現。そして収集されたデータを、医療介護関係者用の情報共有ツールとして広く利用されているアルムの「Team」を活用し、ケアを担当する関係者と共有することにしたのだ。新規開発の時間がなかったというのもあるが、すでに使われているツールを応用するこの手法は、喫緊の課題を解決する手法として注目すべき視点であるばかりでなく、導入時の教育の手間も低減する観点からも優れている。

ただし、行政が行う命を救うための取り組みとして、デジタルデバイスを持っていない、馴染みのない感染者・患者を取り残すことはあってはならない。そういった人たちは確実に存在するが、対象者の数の多さから考え、そこを従来通りのマンパワーで対応することも現実的ではなかった。

そこで活用されたのは自動電話ツール。LINE BRAINが開発した「LINE AiCall」を採用し、対象者に自動で電話をかけ自動音声で健康状態を質問させることにした。出色なのは、「LINE AiCall」には音声を高精度にテキスト化する技術が付属しているため、相手がたとえいわゆる黒電話であってもしっかりとデータとして収集できる点だ。技術視点からではなく現場目線で利用シーンを精査し、活用できるツールを選択した対策本部の姿勢は、賞賛されてしかるべきだろう。

中等症〜重症患者の搬送先調整にdialpad

次に対策本部が支援を考えたのは、保健所が担う患者の収容先調整の役割だ。保健所には常に市民から電話がかかり回線が埋められるなかでも、感染判明者を症状に応じてどの施設に収容するか、関係先と調整することが求められるが、残念ながらレガシーな固定電話とファックス回線しかない拠点が多く、迅速な対応の障害になる懸念があった。

そこで対策本部は、既存の電話回線網を使用せず、すぐにPCやスマートフォンからIP電話をかけられる「Dialpad」を導入した。このツールであれば、既存の電話網による連絡にまったく影響することなく、追加で必要な連絡が行え、さらにPCやスマートフォンアプリを通じ、同時に資料なども共有できる。具体的には、市民への電話による対応をおろそかにすることなく、症状等を聞きながら同時に関係先に状況を聞き、迅速な判断が可能になったという。

これらの投入により、神奈川では保健所をICTツールで強力に支援し、無症候感染者・軽症者の医療機関以外への収容・移送、重点医療機関の整備、そしてそれらをハンドリングする機能の強化に成功した。実際、対策本部によれば現場の新たな作業負担はゼロだという。

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