超音波画像による肝腫瘤診断AIを開発、熟練医を上回る精度を達成 近畿大

 近畿大学医学部の研究グループが、腹部超音波検査画像で4種類の肝腫瘤の画像診断を行う人工知能(AI)を開発し、その精度が熟練医を上回ったと発表した。世界初の成果だとしており、AIを活用した超音波診断の実用化に向けた大きな一歩となるとしている。

もっとも使われる「Bモード超音波検査」の画像でAI開発

【開発したAIのデモ画面】黄色の四角形で囲まれた部分に肝腫瘤(Tumor)が存在する場合の推定確率、およびこの腫瘤が肝細胞癌(HCC)、転移性肝癌(Meta)、肝嚢胞(Cyst)、肝血管腫(Hema)とした場合の推定確率が、画面右上にグラフで表示されている。また、左上には最も高い推定確率を示す腫瘤の診断名とその推定確率が数値で示される。この画像の場合、肝細胞癌(HCC)である確率が99.03%と表示されている。

 研究成果を発表したのは、近畿大学医学部 内科学教室(消化器内科部門)の西田直生志 教授、工藤正俊 主任教授らの研究グループ。肝疾患診療において超音波検査、特にBモード超音波検査※1は簡易であるため広く普及しており、肝悪性腫瘍の診断の際にも最初に行われる画像検査となっている。しかし画像から病気の有無や進行度合いを診断するには経験が必要であり、初心者や非専門医にとっては正確な診断が困難な場合も多い。研究グループでは、このBモード超音波検査において悪性腫瘍も含まれる肝腫瘤※2の鑑別を支援し、ヒューマンエラーを回避できる画像診断用のAIモデルを開発した。

 開発にあたっては、全国11施設から遭遇頻度の高い4種類の肝腫瘤のBモード超音波画像70,950枚を収集。ディープニューラルネットワークの一種である「19層の畳み込みニューラルネットワーク」※3 に学習させた。Bモード超音波画像の腫瘤部を正方形に切り出し、4種類の学習画像数がおよそ等しくなるようにデータ拡張を行い、10分割交差検証法※3にて評価した。学習データ数の増加に伴い、全体の正診率、疾患ごとの鑑別精度、良悪性の鑑別精度、悪性腫瘍検出の感度、特異度は順調に上昇し、最終的に70,950画像の学習AIモデルでは、4種類の疾患の鑑別精度は91.1%、悪性腫瘍鑑別精度は94.3%(感度:82.8%、特異度:96.7%)となって高い鑑別能を示したという。

 続いて研究チームでは、テスト用肝腫瘤動画を用いてAIと熟練医の診断能の比較も行った。AIの診断にはBモード超音波の動画から5フレームの静止画を選び、3フレーム以上で一番高い推定確率を示す疾患をAIの診断とした。一方、ヒトは静止画のみから診断することは通常極めて困難なため、動画を観察して診断した。結果、AIの4疾患鑑別精度は89.1%、悪性腫瘍鑑別精度は90.9%であったのに対して、熟練医5名の4疾患鑑別精度の中央値は67.3%(分布:63.6%~69.1%)、悪性腫瘍鑑別精度の中央値は80.0%(分布:74.5%~83.6%)であり、AIの精度が熟練医の結果を大きく上回った。このことから研究チームでは、肝腫瘤のBモード超音波診断において、このAIモデルを活用することで非専門医においても熟練医を上回る診断を行えることが期待できる、としている。

※1 Bモード超音波検査
最もよく使用される超音波検査法であり、超音波の反射の強弱に応じて画像の明るさ(エコー輝度)が変化することにより、リアルタイムの2次元画像が得られる。

※2 肝腫瘤
肝臓にできた、こぶや固まりのことを示す。原因が明らかでなく、腫瘍性のものや炎症性のものを含む。

※3 19層の畳み込みニューラルネットワーク
データ(主に画像)の特徴抽出をAI自体が行うため、人が抽出作業を行う必要がなく、データから直接学習することができるディープラーニング。医用画像や、音声認識の学習の際によく使用される。

論文リンク:Artificial intelligence (AI) models for the ultrasonographic diagnosis of liver tumors and comparison of diagnostic accuracies between AI and human experts(Journal of Gastroenterology)