東北大学は、同大学の研究チームが進める、低出力パルス波超音波によるアルツハイマー型認知症に対する治療の治験について、第一段階である安全性評価を突破したと発表した。4月より有効性を評価するRCT群の試験が始まる。
40名の患者を対象とした治験を開始へ
アルツハイマー型認知症※1は代表的な認知症のひとつであり、世界で毎年新たに約1,000万人が罹患するといわれている。根治に資する治療法の確立が長年望まれているが、薬物療法に関しては近年新薬開発の頓挫が続いており、課題克服に危機感が強まっている。
東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明授、進藤智彦助教、江口久美子医師、東北大学加齢医学研究所老年医学分野荒井啓行教授らの研究グループは、この課題に対応するための新たな療法の研究を行っている。低出力パルス波超音波(low-intensitypulsedultrasound:LIPUS)※2を脳に照射することで認知機能低下を抑制できる可能性を示すもので、マウス実験でアルツハイマー型認知症の主要因のひとつとされるアミロイドβの蓄積を著名に減少させ大きな注目を浴び、2018年6月に、世界初となる医師主導治験を開始していた。今年に入り、安全性評価を主軸に置いた5名の患者さんを対象としたRoll-in群の観察期間が終了し、3月11日に開催された効果安全評価委員会でその安全性が確認されたという。
評価を受け、4月より有効性の評価を主軸に置いた40名の患者を対象とするRCT群の治験治療を開始する。このRCT群では治療は3カ月ごとに行い、全観察期間は18カ月。認知機能試験(MMSE、ADAS-J cog、CDR/CDR-SB)と行動試験(NPI-Q、Zarit)で有効性を確認する。研究チームではこの治験結果をもとに、将来的に検証的治験、薬事承認申請を目指すとしている。
注1:アルツハイマー型認知症
アルツハイマー病を原因とする認知症の一つ。アミロイド β の蓄積による老人斑と、タウ蛋白のリン酸化による神経原線維変化を二大病理とする進行性の神経変性疾患である。全ての認知症の中で半数以上の割合を占める。注2:低出力パルス波超音波
人間の可聴域を超える周波数(20kHz 以上)を持った音波は超音波と呼ばれ、媒質を振動して伝導する縦波(疎密波)から構成される。パルス波は、連続的に音波を発信し続ける連続波とは対照的に、断続的に音波を発信する照射方法であり、生体内の機械的振動によって生じる熱の発生を抑えられるため、連続波よりも高い強度での照射が可能になる。