リキッドバイオプシーによる脳腫瘍診断モデル作成 感度95%、特異度97%

 国立研究開発法人国立がん研究センターと東京医科大学の研究チームは、血液を用いたリキッドバイオプシーによる脳腫瘍診断モデルの作成に成功したと発表した。感度95%、特異度97%だとしており、簡便かつ高い精度で診断でき、脳腫瘍の早期発見、予後改善が期待できるとしている。

悪性神経膠腫の鑑別で感度95%、特異度97%を達成

 脳腫瘍は無症状の状態で発見されることは少なく、多くの場合は手足の動きや発語の異常、けいれん発作などの神経症状を契機にCT, MRIなどの画像検査で診断される。そのため診断された時点ですでに腫瘍が進行していることが多く、脳腫瘍の早期発見が急務の課題とされる。また脳腫瘍は脳内に発生するため、手術摘出がリスクを伴う場合もあり、血液を用いた診断ができれば、速やかに治療選択を行い放射線治療や化学療法が開始できるメリットがあるという。

 この課題に対し、研究チームは血清中のマイクロRNA※1の解析で診断が可能かを探求した。具体的には、脳腫瘍を有する患者266例と有さない協力者314例の、計580例の血液(血清)中のマイクロRNAを網羅的に解析しました。特に頻度の高い悪性神経膠腫の鑑別を目指すため、悪性神経膠腫157例、悪性神経膠腫以外の脳腫瘍109例に分けて解析した。

 その結果、悪性神経膠腫で有意に変化する複数のマイクロRNAを同定でき、そのうち3種のマイクロRNAを組み合わせることで悪性神経膠腫を判別できる判別式(グリオーマ判別式:「Glioma Index」)を作成できたという。解析対象例を探索群と検証群の2つに分けこのグリオーマ判別式の精度を検証した結果、悪性神経膠腫患者全体の95%を正しくがんであると判別することができ(図1)、診断精度の極めて高い(感度95%、特異度97%)診断モデルの作成に成功したことを確認したとする。また、悪性神経膠腫の組織型と悪性度(グレード)別の検証においても、グレードII星細胞腫せいさいぼうしゅ100%、グレードII乏突起膠腫 100%, グレードIII星細胞腫 90%, グレードII乏突起ぼうとっき膠腫こうしゅ 100%, 膠芽腫こうがしゅ 93%の患者群を陽性と診断でき、グレードIIの患者群においても高い精度で陽性と診断することができた(図2)。

図3 Glioma Indexを用いた悪性神経膠腫以外の脳腫瘍の検証

 さらに、このグリオーマ判別式は悪性神経膠腫以外の脳腫瘍109例の検証において、上衣腫じょういしゅもうよう細胞性星細胞腫さいぼうせいせいさいぼうしゅなどの腫瘍 100%、中枢神経系原発悪性リンパ腫 93%、転移性脳腫瘍 89%、髄膜腫・神経鞘腫しょうしゅ 91%、頭部外傷・脳梗塞100%の患者群を陽性と診断する一方で、2例の脊髄の神経鞘腫はいずれも陰性と診断し、このグリオーマ判別式は悪性神経膠腫を含む脳腫瘍の診断に役立つ可能性も示したという(図3)。

頻出3疾患の区別についても可能性示す

表1 3-Tumor Indexを用いた悪性神経膠腫以外の脳腫瘍の検証

 次に研究チームでは、膠芽腫、中枢神経系原発悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍の鑑別について、画像所見からは3つの腫瘍の区別がつきにくい場合があるため、グリオーマ判別式と同様の統計学的手法を用いてこの3種類の腫瘍を判別するマイクロRNAの組み合わせ判別式(3種類の脳腫瘍の判別式:「3-Tumor Index」)を作成し、精度を検証した。組み合わせ判別式は48種類のマイクロRNAで構成され、解析対象例を探索群と検証群の2つにわけ検証した結果、同モデルは膠芽腫の94%、中枢神経系原発悪性リンパ腫の50%、転移性脳腫瘍の80%を正しく判別した。この結果により、中枢神経系原発悪性リンパ腫の診断精度は低いものの、膠芽腫や転移性脳腫瘍はマイクロRNAを用いて診断できる可能性が示されたという(表1)。

 研究チームは、今回作成した診断モデルは「過去に類を見ない、極めて高い診断精度」であり、かつその精度を血液からの情報のみで実現できたことは大変意義が大きいとしている。今後は前向きの臨床研究でさらに検証および最適化を重ね、脳腫瘍の早期診断モデルの確立を目指すという。なおこの研究成果は、米国医師会雑誌(JAMA)系列のオープンアクセスジャーナル「JAMA Network Open」に12月6日(米国中部時間)付で掲載されている。

※1 マイクロRNA
血液や唾液、尿などの体液に含まれる 22 塩基程度の小さなRNAのことで、近年の研究で、がん等の疾患にともなって患者の血液中でその種類や量が変動することが明らかになっている。そのため患者の負担が少ない診断バイオマーカーとして期待されている。