2018年12月12日、ロコモティブシンドローム対策に医療、テクノロジー、コミュニケーションの分野の第一人者が取り組むプロジェクトの発足会見が行われた。広く一般にアイデアを求めるなどオープンイノベーションのかたちをとり、2020年にはプロジェクトから第一弾の商品・サービスを生み出したいという。
医療 x テクノロジー x コミュニケーション
今回発表されたプロジェクトの大きな特徴は、主要チームメンバーが各界の第一人者であることだ。
まずロコモティブシンドローム対策推進の中心をこれまでも担ってきた、ロコモ チャレンジ推進協議会会長の大江隆史氏(NTT東日本関東病院 院長補佐・手術部長)が登壇。「現在、すでに要介護になる原因は、ロコモティブシンドロームも関係する運動器の疾患がトップになっている。このことがあまり知られていないので、若い世代や、ロコモ度がまだ低い段階にある約4500万人に対策をアピールしていきたい」と、プロジェクト発足の意気込みを語った。
続いて登壇したのは気鋭のメディアアーティストとして知られ、最近は「xDiversity」プロジェクトで介護分野へのテクノロジー応用にも取り組む落合陽一氏(JST CREST xDiversity プロジェクト研究代表者/筑波大学学長補佐・准教授/ピクシーダストテクノロジーズ株式会社代表取締役)。現在の自分のプロジェクトを紹介しながら、超高齢社会であり労働人口減少が激しいこれからの日本ではテクノロジーの活用が必須だとし、しかもそのためには「時間がない。様々な問題を同時解決しなければどうにもならない」と危機感を表明。「できるだけ早い段階でAIとロボティクス、あらゆるIoT機器を活用する社会構造を実現しなければならない」とした。
落合氏は、いま取り組んでいる様々なプロジェクトは「直面する課題にいまから対応するために、汎用的なAIやデバイスが開発されるのを待つのではなく、それぞれ個別具体的に、かつ必要不可欠な課題にひとつひとつ対応していく。そのことによってこそ、そこから得られるデータは価値の高いものになる」と力説。今回のプロジェクトに関しては「いま自分が関わっているプロジェクトはすでに障害を持つ方に対するものが多いが、そのために培ったものを予防のためにいかに活かせるか。やはり車椅子のお世話にならないように生活できるのがいいわけで、団塊の世代が75歳以上になる2025年、あと7年でいかに(ロコモティブシンドロームに対する)社会認知を上げ、予防的措置を普及させ介護状態になる人を減らせるかが課題と考えている。これらを同時に進めるのは大変だが、背に腹は変えられない。とにかくやってみるしかない」と強い思いを吐露した。
主要メンバーの最後として登壇したのは、近山知史氏(TBWA\HAKUHODO シニアクリエイティブディレクター)。表現の専門家としてさまざまな媒体の広告に携わるほか、運動機能の回復をサポートする車椅子「COGY」や、認知症の方が給仕するレストラン「注文を間違える料理店」のクリエイティブを手がけるなど、医療/介護領域、またはソーシャルな取り組みにも実績がある。近山氏は自身のこれまでの作品を振り返りながら、このプロジェクトに対しては「(コミュニケーション戦略で)みんなの問題として認識してもらえるようにしたい。また、歩くことの価値を広げていきたい」と意気込みを示した。
「さわやかな高齢化、しなやかなテクノロジー」
続いて3人のトークセッションが行われ、プロジェクトに対する今後の展望などが語られた。「このプロジェクトで成し遂げたいこと」というテーマに、大江氏は「認知度を上げ、国民全体の問題にしたい」と答えた。落合氏は「若い世代がテクノロジーで高齢社会の問題を解決することが、かっこいいと思われる社会にしたい。個人的には老化すること、体が徐々に動かなくなることも、実は見方を変えれば悪くないのではと考えていたりもする。例えば認知症も、世界が古ぼけたオールドレンズで見えていると思えばそれほど悪くないんじゃないかと思える」と独自の視点を披露。続いて「みんなが白髪染めして真っ黒な髪(でなければならない)社会は嫌じゃないですか。いきなり真っ白になるのは嫌かもしれないけれど、徐々に白くなる、それをいいと思えるような社会。さわやかな高齢化というか、そんな価値観が認められれば、そこにはしなやかなテクノロジーが必要になると思う」と、近未来のテクノロジーへの思いも見せた。近山氏は「近未来、二足歩行じゃないと正常ではないといった意識が過去のものになるようにしたい」と語り、2人の語った思いを受けながら、健常者の状態が「正常」であり、それ以外は「異常」といった社会の不寛容さを変革したいという夢を披瀝した。
2020年には第一弾を発表へ
今回発表された「Locomonovation」プロジェクトは、現段階でステークホルダーが確定しているコンソーシアムといったかたちではなく、社会に対し広く意識を喚起しながら具体的なかたちを作り上げる、オープンイノベーションの手法を取り入れる。来年2月には一般の方も参加できるアイディエーションイベント、4月にも続編を開催し、その後協働事業者を募集、2020年4月には第一弾の商品・サービスを発表したい考えだ。