2019年6月10日、都内で「オンライン診療の適切な実施に関する実施の見直しに関する検討会」の第6回が開催された。この日、厚生労働省側はこれまでの議論を踏まえた改訂案を初めて提示、大筋で了承された。6月中にパブリックコメントを募集し、7月に改訂される見通し。Med IT Techでは主な改訂事項について網羅的にレポートする。
実施医師は研修受講を義務に
まず大きな事項として、オンライン診療を実施する医師に対し、2020年4月以降に厚生労働省が実施する研修の受講を義務とすることが明確に示された。すでに実施している医師は、2020年10月までに受講するものとしている。
類型を再度整理、4つに
今回の改訂では、オンライン診療の類型について以下のように再定義した。
①オンライン診療…診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為。
②オンライン受診勧奨…疾患名を列挙したり、一般用医薬品等を用いた自宅療養を含む経過観察や非受診の勧奨が可能。
③遠隔健康医療相談(医師)…患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言が行える。
④遠隔健康医療相談(医師以外)…一般的な医学的な情報の提供 や、一般的な受診勧奨に留まるもの。(付番等、改訂案の要点をMed IT Techが編集)
現行の指針からは、上記②、③において類型の新設、表現の追加が行われている。この目的としては、現状を鑑みてセカンドオピニオンなどの、医師が行うものの診断等の医行為を行わないケースについて認めるためとみられる。
離島・へき地医療は「二次医療圏内で」
現行の指針では、事実上都市部における「オンライン診療」のみの定義となっていたが、今回離島・へき地医療についても指針の範囲内とし、以下のような要件を付した。
○地域医療を担う医療機関の常勤医が1人、または常勤医がおらず非常勤のみで代診が立てられない場合に認める
○対象医療機関は、診療が困難となった医療機関と同じ二次医療圏に存在する機関のみ
○対象患者は、診療が困難となった医療機関ですでに対面診療を行なった患者のみ
○オンライン診療を行う医療機関は、患者から同意を得るほか、もとの医療機関と事前に医療情報を共有すること
○オンライン診療後の対面診療はもとの医療機関で行うこと
基本的に緊急避難的な措置として、かつ同じ二次医療圏においてのみ認めるという方針であることが示された。これに対しては、検討会の委員から「地域医療の実情に鑑みて、二次医療圏内のみというのは厳しいのではないか」とという発言も出ていた。
「D to P with D」は初診からのオンライン診療を認める、遠隔手術を想定
今回の見直し検討会では、患者のそばに医師がいる場合(D to P with D)と看護師がいる場合(D to P with N)について論議を行なっていた。その結果この改訂案では、前者では初診からのオンライン診療を認め、後者については「初診対面の原則」の範囲内であると定義した。ただし、いずれの場合も事前の十分な情報共有(訪問看護指示書など)が必要とし、新たな診断が必要となった場合は対面診療を行うよう求めている。
今回「D to P with D」を定義し認めた理由としては、5Gの実用化という通信環境の高度化が視野に入っているなか、総務省、内閣府が活用例として想定する遠隔手術への実務的対応の必要性があげられる。指針案では、具体的な対象疾患や患者の状態など、詳細な要件は各学会でのガイドライン策定に委ねるとしている。
医師と患者双方に「お互いに本人確認」することを求める
後述する「初診対面の原則」の例外ケースを拡充させたことにともない、なりすましを防止する観点から、医師、患者双方に「身分確認書類でお互いに身分確認を行う」ことを原則とした。特に初診でオンライン診療を行う場合、患者に対し、顔写真付きの身分証明書を含む2種類以上の証明書を提示することが望ましいとしている。
オンライン診療に使用するシステムの要件を厳格化
今回の改訂文案では、オンライン診療に活用するシステムについて、特にセキュリティ・プライバシーへの配慮を中心に大幅に要件が追加された。まず「オンライン診療システム」と「汎用システム」を定義分けし、後者を使う場合は医師が身分証明書を画面に提示すること、患者側からの発信を行わないことを求めた。事実上、後者の使用はオンライン診療においては最適解ではないとという厚労省の姿勢を暗に示す格好となっている。
さらに「オンライン診療システム」に対しても、セキュリティ・プライバシー面の要件を満たしているか第三者機関の認証取得を求めた。具体的にはHISPRO、プライバシーマーク、ISMS、ITSMS、の認証や情報セキュリティ監査報告書の取得、クラウドセキュリティ推進協議会のCSマーク、ISMSクラウドセキュリティ認証のうちのいずれかの取得が望ましいとした。
またセキュリティリスクなどについて、ベンダーが医師に、医師が患者にそれぞれ説明を行うことを従来より求めているが、今回の案では患者に対しても「患者に実施を求めるべき内容」の項目を新設し、要件を列記。既述の身分証明書の提示のほか、医師側の了解なく録音録画を行わないこと、医師のアカウントを漏えいしないこと、診療中は第三者を介在させないことなどを求めている。
議論の大部分を費やした「緊急避妊薬のオンライン診療」の要件は
検討会の審議内容で大きく注目された「緊急避妊薬の処方」を初診対面の原則の例外とする件については、以下のような要件とした。
①相談窓口等が対面診療が可能な医療機関のリスト等を用い、対面での受診可能な医療機関を紹介する
②地理的要因がある場合、 心理的な状態を鑑み対面診療が困難と判断した場合において、例外として認める
③上記を判断するのは、窓口に所属、あるいは連携する医師
④産婦人科医または厚生労働省が指定する研修を受講した医師のみが、初診でのオンライン診療を行える
⑤緊急避妊薬は1錠のみ、院外処方とし、研修を受けた薬剤師の面前で内服
⑥3週間後に産婦人科で対面診療を行うことを確実に担保する(付番等、改訂案の要点をMed IT Techが編集)
基本的にこれまでの審議内容(既報)を踏襲した内容だが、これまで出てきていなかった新しい内容、仔細が不明な内容もある。まず最初のゲートキーパーとして、性被害や女性医療に関する相談窓口が想定された。厚生労働省としては、女性健康支援センター、婦人相談所、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター等を想定している。金銭的支援や付き添いなど様々なサポートが期待でき、女性側にメリットがあるとの見解を示しているが、ただし、対面受診が困難だと判断する医師の適格性(後述の研修受講の有無や、自院へ誘導する可能性の排除)の担保については不明だ。
産婦人科以外の医師と薬剤師にそれぞれ研修受講を求める
緊急避妊薬をオンラインで処方するための医療関係者側の要件として、産婦人科医以外は「厚生労働省が指定する研修」の受講、内服を確認する薬剤師に対しても研修受講を求めている。ただ検討会の審議ではこれらの仔細は明らかでなく、それぞれがいつ頃実施可能となるのか、また、2020年以降、義務化する研修との関係性も明らかになっていない。厚労省としては、薬剤師への研修のほうが早めに始められるのでは、との見解を示している。
今後は6月中にパブリックコメント募集を開始し、7月中にも改訂指針の公開を目指す。