大阪大学とオーストリアの民間の研究所からなる国際研究グループが、1μmレベルの薄さで柔軟性・耐久性を併せ持つ素材を開発、この素材を利用して生体信号計測センサを試作し、実際に脈波計測に成功したと発表した。このセンサは発電素子・蓄電キャパシタなども搭載しており、外部電源なしで単独動作する極薄生体センサが日本で実用化される可能性が出てきた。
脈波計測および脈拍の算出、自己発電に成功
長時間、違和感なく体に取り付けられる生体センサは、精密な生体信号データを必要とするデジタルヘルスソリューションには不可欠といわれており、世界で開発が加速している。今回 、そのニーズに応えるため、大阪大学産業科学研究所の植村隆文特任准教授、荒木徹平助教、関谷毅教授らと、オーストリア Joanneum研究所のAndreas Petritz博士、Esther Karner-Petritz 博士、Philipp Schäffner博士、Barbara Stadlober主任らからなる国際共同研究チームが「極薄シート型圧電システム」を開発した。
システムは1µm厚のポリマー基板上に強誘電性ポリマー、有機ダイオード、蓄電キャパシタなどを集積したもので、圧力・歪・振動に対して高感度(15 nC/N)、高速応答(20 ms/N)でありながら優れた機械的柔軟性(曲げ半径 40 µm)を備えており、ヒトの肌などに貼り付けても耐えられる特性を獲得した。研究グループでは実際に被験者の頸部、手首にシステムを貼り付け実験し、脈波の計測、およびそこから1分間の脈拍が算出可能であることを確認した。また、 3 mW/cm3を超える自己発電と蓄電にも成功。関節部に貼り付ければ、約200 mJ/dayの発電ができると試算している。
研究グループでは、例えば首の左右にこのシステムを2つ貼り付ければ脳への血流を計測でき、左右の血流が異なる場合、脳の血管が詰まっていることを検出できるかもしれないとし、このような手軽な生体計測機器があれば、家庭で新しい健康管理が可能になるとしている。なお研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、4月23日付で公開された。