自治医科大の研究グループが、急性腎障害(AKI)の発症時に発現低下する血中マイクロRNAを発見し、マウス実験でこのマイクロRNAをベースとした物質を投与することで治療・予防効果を得られる可能性があると発表した。同疾患に関するバイオマーカーが発見されたのは世界初とみられる。
バイオマーカー、および治療薬としての可能性を発見
研究成果を発表したのは、自治医科大学附属さいたま医療センター腎臓内科 森下義幸教授らの研究グループ。急性腎障害(AKI)は、感染症、薬剤、外科手術後などに生じる急激に腎機能が低下する疾患で、世界で毎年1,300万人が発症しそのうち170万人が亡くなっている。また成人入院患者の5人に1人がAKIを合併するとも報告されており、合併症としても発症率の高い疾患のひとつとされている。現在までAKIの早期診断法と特異的治療法・予防法は確立されていないため、研究グループでは、血中のマイクロRNAを探索することによりAKIの診断および治療・予防法の研究開発に取り組んだ。
研究グループでは現在まで2,000種類以上あるとされているマイクロRNAのうち、血中に存在するもののなかから、AKI発症時に発現が低下している物質「miR-5100」を発見した(判別能はAUC 0.96、感度1.00、特異度0.833、p <0.05、カットオフ値0.14)。またこの物質が発症時に発現低下している事実をとらえ、治療薬としての可能性も探求。人工合成したmiR-5100と非ウイルスベクターの複合体をAKIモデルマウスに投与することで検証したところ、腎臓で複数のアポトーシス経路を抑制でき、AKIの治療・予防効果があることを確認したという。
研究グループではこの成果について、AKIの検査や治療・予防薬としての活用が見込まれる世界初の報告であるとともに、発見した「miR-5100」は人工合成可能で工場での量産が見込めるため、今後ベンチャー企業と提携し、実用化に向け研究開発を進めるとしている。
論文リンク:MicroRNA expression profiling in acute kidney injury(Translational Research)